6-14 地理
「はぁ……ようやく一段落ついたね。もしかしてあの人結構だらしない?」
「だろうな……忙しい立場なのは察するがさすがにこれはないだろ……」
二人で愚痴をこぼしながら山の土台になってた椅子に腰を下ろす。
「今五時半か……まだ余裕あるけどどうする?」
「う〜ん……ここまでやったならなんか読んでいきたいな……手短にサクッとわかりやすいやつ……あ、地図とかないか?この街のじゃなくて世界地図的なやつ」
「世界地図?それなら確かここらへんに……あった。はい」
「助かる」
筒状にまとめられた紙の地図を近くの、これまた紙の山の土台にされてた机に広げ、四隅を押さえる。
「同じ形……やっぱり同じ世界って考えてよさそうだな」
「召喚前と後で?」
「ああ。俺が居た時代にも地図はあった。細かいところは変わってるが同じ大陸だ。間違いない」
魔術のシステムや大陸の形といいやっぱり同じ世界の中で喚ばれたってのは間違いないだろうな。
あとは誰が、なんで、どうやって喚んだのかだが……それは追々探っていくしかないだろう。
アルの記憶のこともあるしこの書斎の情報が思い出すきっかけになればいいんだけど……
「なあ、この街はこの地図のどこにある?」
「『ラタトスク』が確か……ここ、大陸の最北端の街だよ」
「北……?っ……」
「……大丈夫?」
「……なんでもない。にしても北か……」
「アルの居た時代には北に何かあったの?」
「俺の時代の北って言ったら『不毛の大地』って呼ばれてた」
「なんで?」
「……わからん。ただ北には『何か』あったような気がするんだが……ダメだ、思い出せない。ん〜……自力で少しでも抵抗できればな……」
『不毛の大地』か……言葉のままの意味なら到底人が住めるような土地じゃないはずだ。
でも今じゃ文明が発展してるくらいだし街だってある。
大陸の形が同じって言ってるあたり違う場所ってこともないだろうし……不毛の大地から今のこの街まで発展してるってことは本当に遠い時代の話なんだろうな。
「仕方ないよ。あ、もしかしたら魔術の知識も弄られてるんじゃない?」
「いや、それは問題ないんだが……昔のことに繋がるからかな、どうも戦いに使った場面を思い出せないんだよ。戦うための力だったはずなのにな」
「う〜ん……やっぱりアルに昔のことを思い出させたくないのかな?」
「それもあるだろうが……どっちかと言うと俺に昔のことを語られるのが嫌って感じがするな。俺に昔のことを知られたくないなら記憶を全部思い出せないようにしてしまえばいいからな」
「確かに。じゃあなんで一部だけ思い出せないようにするなんて中途半端な手段選んだんだろ」
「まあ普通に考えたら不都合があるから、だろうな」
「不都合......あ、そういえば逆に植え付けられた記憶があるって言ってなかったっけ」
こんな中途半端な手段を取ったり、記憶をうえつけたりと何か目的があるのは明らかだ。
それが分かればもう少し正確な行動指針が立てられるんだけど......
「......すまん、それはまだ待ってくれ」
「......話したくない?」
「まだ、な。そう簡単に話せる内容じゃないんだ」
「わかった」
本人が話したくないって言うなら無理に聞き出すのは良くないだろう。
アル自身もまだ整理がついてないところもあるだろうしできるだけ負担はかけたくない。
「すまんな」
「いや、いいよ。話せないのには理由があるんでしょ?だったら無理強いはしない」
「ありがとう」
そんな会話をしながらアルは改めて地図を覗き始める。
「なあ、他の東、西、南には何があるんだ?」
地図の三箇所を指で指しながら疑問をなげかけてくる。
その問いに私は記憶の隅まで思い出しながら知識を絞り出して答える。
「え〜っと確か東には開拓地があって、割と最近だけど森を切り開いて住める土地を広げてる。西は農地で有名だったはず。なんでも土地が豊かで作物がよく育つらしいよ。それで南は王都で貿易都市。大陸の真ん中にでかい山があって貿易路として不向きだから結果的に人が集まる王都で貿易が盛んになったらしいよ」
「っ......!」
「大丈夫!?」
各地の情報を聴くとアルは頭を抱えて蹲ってしまった。
「ああ......むしろこれはちゃんと思い出せてる証拠だ。妨害振り切って無理に思い出そうとしてるから仕方ないんだ」
「......無理はしないでね」
「わかってる。本気でキツかったら何もかも投げ出して休むから」
「ははは......まあそれくらい言ってくれるとこっちも安心できるかな」
「なら良かった。というわけでさっそく一気に行きすぎてキツイので今日はここで切り上げていいか?」
「うん。時間も時間だしご飯食べに行こっか」
「だな」
広げた地図を片付け、書斎の扉の鍵を閉める。
収穫と今後の期待を胸に、空腹を満たすため歩き出す。