6-12 お出かけ
時刻は朝の五時を少し過ぎた頃、特に示し合わせたわけでもないが互いに目を覚まし、雑談をしながら身だしなみを整えていく。
着替えるタイミングで服がないことを指摘し、服屋に行くことを決め、ついでにその他の小物も揃えるため今日はショッピングに繰り出すこととなった。
と、いうわけで──
「いらっしゃいませー!」
店の扉をくぐるのと同時に店員さんの元気な声が響く。
「本日は何をお求めでしょうか?」
「私服を探しに来ました」
「でしたらあちらが私服コーナーになります」
「ありがとうございます」
「いえいえ。ごゆっくりどうぞ〜!」
案内されるままに私服コーナーに向かい、店員さんが戻った後にアルに話しかける。
「ねえ今普通に英語使ったね」
「ん?ああ翻訳術式の効果が出てきたのか。まあちゃんと機能してるみたいでよかった」
結構衝撃を受けたがアルは軽く流してしまった。
まあこの術をかけてくれたのはアルだし本人からしたら効果の確認以外の何でもないんだろう。
「……にしても女物ばかりだな」
「……二人とも体が女の子だからね。うん、仕方ない」
「ああ……メンズの服見に行こうぜ」
「わかった。あ、でも後でここらへんの服も見ていい?」
「別にいいが……」
「ありがとう。それじゃあっちがメンズのコーナーみたいだし見に行こっか」
「……だな。なんかいい服あるかな。できるだけ地味なやつが欲しいな」
「結構いろんなの取り扱ってるし探せば好みのがあるかもよ?」
「う〜ん……俺の好みは体に合わないし、見た目は可愛いから着飾ればもっと良くなるんだろうけどそうすればそうするほど俺ではなくなっていくような感じがしてな……」
「なるほど……」
その気持ちは分からなくはない。
この世界に転生した直後の私に服を選ぶ権利なんて無かったから父さんたちが買ってきたり作ってくれた服を着てたからな……
まだ混乱してた時期だったからなおさら自分が何か違うものになってしまったようで怖かった。
私は早々に前の人生とは区切りつけて『前世の記憶を持ったこの世界に生きる私』として生きてきたから子供のうちにある程度慣れたが......アルは違う。
多分、アルの──日向奏汰の人生はまだ続いてる。
言葉使い、一人称、昨日観た記憶での行動や本人の口から語られた旅の道程といい前世に帰ろうとしてる節がある。
だから女装や言葉遣いとか、自分が女の子になり、この世界に生きてることを自覚するのを避けて前世のままであろうとしてる。
それは私が口を出せることじゃないし、本人の自由だ。
けど、同じ境遇に遭った私からすればどことなくいたたまれない気持ちになる。
「ん?どうしたんだ?いこうぜ」
「あ、うん。いこっか」
微妙な、曖昧な、どっちつかずで複雑な気持ちを抱えたまま手を引かれるように歩き出す。
「ん〜……まあこんなものか」
「さすがにゴリゴリの男装はちょっと不自然だからね」
「まあそれは仕方ないか。男装よりのファッションなだけマシと思おう」
結局しばらく悩み続けた結果無地半袖の薄手のシャツにベージュのルーズパンツという中性的なファッションとなった。
本人も不自然じゃない範囲でまだ納得のいく服装というのが気に入ったのか色違いで何着か購入するつもりでいる。
「にしてもお前よくそんなの着れるよな……」
「学院に通ってた頃の先生が他人を着飾るのが好きでね……よく連れて行かれてはマネキンにされたから慣れたよ」
「そ、そうか……」
一方私はというとコレから暑くなるので寝巻き用にショートパンツ、外出用にハーフパンツとスカート、半袖のポロシャツとTシャツ、あと靴下と下着とヘアピン髪ゴムの追加だ。
まだちょっとずつ身長伸びてるからな、一年もすれば微妙にサイズが合わなくなるのだ。
まあ新しい趣味探しという意味で色々買ったという意味合いの方が強いか。
学院で練習して色々器用になったおかげでカミソリとかも作れるようになったし、《空間把握》のおかげで視えないところも剃りやすいし、化粧水とか乳液も売ってるから体毛の処理がしやすくて助かる。
生まれつき薄いのもあってこういう脚や腕を出すファッションにも手を出しやすくバリエーションも増えて面白いな。
「まあとりあえず会計しに行こっか」
「……だな」
カゴに詰めた衣類をレジに通し、お金を払って《拡張収納》に詰め込んで店を出る。
「このあとどうする?ギルドに戻ってもいいし外でご飯食べてもいいし、街を歩いてもいいし」
「う〜ん……それじゃどっかでご飯食べてギルドに戻るか。ギルドに情報を話せって言われてるし戻ったら少し話してくるよ。ちょっとずつでも話とかないと怪しまれ るしな。あ、もちろん転移者関係のことは喋らないからな」
「わかった。それじゃ近くでご飯食べられるところ探そっか」
「だな」
今後の予定を軽く決め、ごはん処を目指して歩き出す。
……こういう過ごし方も悪くないな。