6-11 激動の一日の終わり
「それじゃ、頼む」
「お願いしま〜す!」
「はいはい、それじゃ、できたら持っていくね」
「ああ。楽しみに待ってる」
そう言い、二人は部屋からでて扉を閉め各々帰路につく──が扉が閉まりきるその瞬間、一言、呟いた声が聞こえた。
「……本当に何かあったらすぐ言えよ」
その小さな声は扉が閉まる音ですぐにかき消され、私以外の誰かに聞こえることはなく、その意味を説明することもなく言葉を発した人は帰っていってしまった。
まだアルのこと疑ってるのか?いや、単に私が心配なだけかもしれない。
眼の前で発生した謎の現象と仲間が四六時中一緒に行動しなきゃいけないとか普通に考えたら心配するのは当たり前っちゃ当たり前の話なんだけども。
けど私からしたらアルとは色々話したいことがあるしなんと聞かれても大丈夫と返すしかないんだよな……なんというか、申し訳ない。
「ん、どうかしたか?」
「いや、なんでもない。それよりどうする?もう寝てもいいけど……」
「レイチェルはどうするんだ?」
「私はちょっと作業しようかなって思ってる」
「さっきの剣のやつか?」
「うん」
「ふ〜ん……俺はその作業見とこうかな」
「え?別にいいけど何も面白いことないよ?」
「いいんだ。俺の時代には多分なかった技術だしどんなものか気になるんだ」
「なるほど……ま、いっか。ただほんとにつまらないし長いから先に寝てもいいからね?」
「ああ。眠たくなったらそうさせてもらう」
物好きだな……まあ別に見られるのは気にしないし本人がそうしたいって言うなら止める理由はないけど。
私の一挙手一投足をまじまじと見つめるアルを気にすることなく拡張収納から道具を取り出し、二人の剣の目立たないところ……布で覆い隠される柄の端っこに彫刻刀を入れていく。
少しずつ、きれいな円を描きながら彫りを入れていく。
アルも気を使って静かにしてるおかげで金属を彫刻刀が削る音だけが響き、よく聞こえる。
鍛冶場のあの空気感はよく集中できたけどたまにはこういう場所でやるのも悪くないな……そんなことを考えつつ、少しずつ手を動かしていく。
カリ、カリ、と魔力とともに刻みを作り続けること約一時間半ほど。
「よし……これで一本完成っと」
「……すげぇな」
「ん?」
「いや、よくそんな集中できるよな」
「そう?ただ真剣につくってるだけなんだけどね」
「へぇ……記憶観た時も研究室とか図書室にちょくちょく籠もってたし研究職とか裏方の方が得意なんじゃないか?」
「ここに来るまでいろんな人に言われたのも観たでしょ。もう十分理解してる。その上でこの道を選んだんだから口出さないでほしいかな」
「そうか……すまん」
「別に気にしてないよ?ただしつこいとちょっといやまけど」
「次からは気をつけるよ。……んで、それどうやってつかうんだ?」
加工したマルクの剣を指差し、疑問を投げかけてくる。
「これはね……こんな感じで使うんだよ」
マルクの剣を握り、魔力を流し込む。
剣が薄く発光し、動きに合わせて魔力で勢いと威力をブーストされた刃が空気を裂き、ヒュンと音を立て空を斬る。
「ふ〜む……普通の振りと比べてかなり速いな」
「魔力を放出して剣を押し出して威力と速度をブーストしてるんだよ。あと魔力でコーティングするから壊れにくくなる。仕組みとしては単純なものなんだけどね、これが意外と効果的なんだよ」
「なるほどな。迷宮の魔物を相手にするならこういう備えはあるに越したことはないな」
「うん。それに迷宮の魔物相手には特に効果が大きいからね」
「そうなのか?」
「詳しい理由は分からないんだけどね。魔物の体が魔力で作られてるっぽくてさ、間力で編まれた体を魔力で断ち切ってるみたいな感じかな?」
「魔力で……か。痛っ──」
「大丈夫!?」
「っ、ああ。今日は色々あって疲れたみたいだ。あんなに記憶を読み取ったの久しぶりだったしな。それに魔術で弄られた記憶のことで考えすぎたみたいだ。……すまん、先に寝る」
「わかった。それじゃ作業も一段落ついたし私も寝よっかな。え〜っとパジャマ……あった」
「あ」
「どうしたの?」
「俺これ以外の服持ってない」
「……確かに。私のでよかったら予備貸すけど」
「……すまん、助かる」
言われてみれば当たり前だがアルは聖遺物以外は手ぶらであそこに召喚されたんだ。着換えなんて持ってるはずない。
明日服でも買いに行こうかな……
そんなことを考えながらパジャマに着替え、ベッドにもぐり込む。
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみ」
明かりを消してベッドに全体重を預ける。
今日はほんと色々あったな……アルの時代のこと、転移、転生のこと、《沈静化》の謎も多少解明できたとはいえわからないことばかりだしまだまだやることばかりだな……
まあ、今はいいか。
やらなきゃいけないことの一切合切を忘れ、茹だった頭を休めるためにも睡魔に意識を明け渡していく。