6-10 顔合わせ
「はい、メニュー。お金はもらってるから好きなの頼んでいいよ。あ、アレルギーとかある?」
「いや、そういうのは多分ないな。というかこれ……やっぱり字が変わってる。読めなくはないが……めんどくさいなこれ」
「代わりに読もうか?」
「いや、大丈夫だ。なんとなくだが読めるんだよな……よし、決めた。レイチェルは?」
「私も決めた。すいませ〜ん!」
互いに注文を決めたのを確認してから従業員の一人を呼んでその注文を伝える。
注文を伝え終え、あとは料理が運ばれてくるのを待つだけとなった──が、そんな暇を持て余すこともできず新たなイベントが起きる。
「レイ?」
「あ、マルク」
「奇遇だな、レイチェル。大丈夫だったか?」
「平気……というか何もなかったよ。部屋で軽くおしゃべりしてたくらい。だよね?」
「はい。ここに来たばかりで何も知らない私に色々教えてくれてたんです」
とっさに口調を戻した……いや、普段の口調を隠し、喋り方を変えたアルが話を合わせてくれる。
変に男の口調で喋って勘ぐられるの面倒くさいし、転移者関連の話が下手に広まると何が起きるかわからないのでマルクたちには申し訳ないが秘密にさせてもらう。
正直今マルクたちと顔を合わせるまで何も考えてなかったから行き当たりばったりな対応になったが、アルがうまいこと合わせてくれそうだしなんとかなりそうだ。
「何か変なことされなかった?」
「大丈夫だって。ヒナこそちゃんと休んでる?」
「私は大丈夫なんだけど……何かあったらすぐ呼んでね?」
「わかってる。何かあったら真っ先に頼らせてもらうからね」
「うん!」
「その時は俺たちも呼べよ?」
「わかってるよ」
「ならいい。あ、相席してもいいか?」
「私はいいよ。アルカディアは?」
「私も構いません。どうぞ、空いてる席も少ないですし座ってください」
「……ああ。そうさせてもらう」
マルクが座ったのをきっかけにベインとヒナも座り、五人での夕食となった。
「ごちそうさまでした」
手を合わせ、短く唱える。
「私がまとめて会計しとくからお金ちょうだい」
「わかった」
「すまん頼んだ」
「ちょっと待ってね……はい、どうぞ」
「一、二、三……ちょうどだね。それじゃ会計はしとくからここで解散にしよっか。さっき言った通りしばらく迷宮にはいけないと思うから。多分一ヶ月くらい自由行動になると思う」
「わかった。あ、なら俺の剣に魔力放出の術式刻んでくれないか?できる範囲でいいんだが……」
「わかった。私のとおんなじようなやつでいい?」
「ああ、それで頼む。後で剣持って行く」
「わかった」
「私のやってほしいんだけどダメ?」
「別にいいよ?」
「やった!それじゃあとでマルクと剣持っていくね!」
「うん。それじゃ、また後で」
加工の依頼を請け負い、軽く打ち合わせをしてその場は解散となった。
「アル、大丈夫だった?」
「打ち合わせ無しで話し合わせること以外は大丈夫だったよ」
「あ〜、うん、それはごめん」
「ま、それ以外は割と平気だったな。いい仲間じゃないか。迷宮での戦いを見た感じ実力も申し分ないしいい仲間を得たな。ただ……」
「ただ?」
「あのマルクってやつ、ちょっと苦手だ」
「なんで?」
「目つきがな。いや見た目ってわけじゃなくて、俺を見る目がな。貴族かなんかの出なのか?」
「うん。貴族の出身って聞いてる」
「やっぱりな……なんというか……まだ俺のことを疑ってるような目だ。疑り深く、わずかな機微も見逃さない。一番騙し辛くて苦手なタイプだ」
「騙し辛い……?」
「ん?ああ別に騙してどうこうしようってわけじゃないんだ。ただ癖でな」
「癖?」
「俺が居た時代はみんながみんな何かしらに苦しんでたからな……俺が一年修行してる間《幻想投影》と血属性の応用で見たいものを見せてたんだ。騙されないやつも居たが大半のやつは見たいものが実際に見えてるってだけで元気になってくれた」
「それ……」
「ああ。俺だってやりたくてやってたわけじゃない。ただ、そんな偽物の希望でもなければやってられない時代だったんだ。……っと、雰囲気が暗くなっちまったな。早く戻ろうぜ」
「……そうだね」
アルが居た時代はどんな状況だったのか、一度見たはずなのにそれが脳裏にこびりついて剥がれない。
それほど切羽詰まった状況になるって何があったんだろう。
そんな暗い想像を膨らませながら二人で部屋に帰っていく。