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6-8 現代の記憶

 アルが世界の状況を知り、もとの部屋に戻ったところでまた世界が暗転する。


「これで終わり?」

「ああ。こっから先は丸一日部屋に閉じこもって考え詰めた挙げ句国王の圧に負けて勇者の責務を背負うことになったつまらないストーリーだ。それにここからは妨害のせいではっきり思い出せない。途切れ途切れになるし別に見せなくてもいいと思ってな」


 苦虫を噛み潰したような表情でアルはそう答える。


 自分のために一人の少女が命を捧げたこと、自分が病に伏し、助けを求める人の人生を生きる希望になっているということ、そしてやらなければこの世界もろとも自分も死ぬということ。


 突然そんな事言われて混乱しない人間は居ないだろう。

 私だって最初は混乱したし、謎のスキル『沈静化』がなければ混乱し、暴挙に出ていた可能性もある。


 アル自身にとっても苦い記憶のようだし、思い出したくもなかっただろう。


「……ごめん。多分、辛い記憶だったよね」

「ん?いいんだよ。もう終わったことだしな。それよりどうだった、お前が生きてきた世界とは全然違っただろ」

「うん……今は疫病も流行ってないし、魔物が地上で異常発生してるってのも聞いたことない。多少の流行りはあるけど大抵すぐ終わるし、魔物も騎士団が対応できる範疇。それに『魔王』なんて言葉御伽噺くらいでしか聞いたことないかな」

「ま、だよなぁ。やっぱ俺が生きてた時代とは違うんだな。あとはどういう理屈でここに飛ばされたか……」

「う〜ん……再転移した可能性は?」

「多分ない。まだここにきてからそこまで経ってないけど別の世界には思えないんだよな。俺の《幻想投影(イデアスクリーン)》がちゃんと機能してるし、お前らの戦いを見ても俺が居た時代とそこまで変わらない。もちろん進歩はしてるんだけどな、魔術を使うっていう大元が変わってないんだ。それに迷宮?に見覚えがあるような気がするんだよな……」

「アルがそういうなら多分同じ世界だよね。とりあえず私の記憶見て判断材料増やすのはどう?」

「いいのか?」

「うん。というか最初から互いの記憶を見せ合って情報をすり合わせるって話だったでしょ」

「まあそうなんだが……辛くないか?」

「私は……アルに比べたら苦労したって言えないと思うから」

「俺だって結局は国王の権力と仲間におんぶにだっこで進んでいった記憶しかないしそんな事ないと思うんだけどな……」


 互いに謙遜しあって微妙な空気感になる。

 こういうところはやっぱり日本人なんだな。


「……とりあえず記憶映してもいいか?」

「うん。つまらないと思うけど、それでいいならいくらでも見ていいよ」

「そうか……それじゃ、いくぞ。《幻想投影(イデアスクリーン)》」


 アルの魔術が再起動し、暗闇に包まれた世界に今度は私の記憶が映し出される。


 最初に映し出されたのは、あの日、学校から帰る下校途中の記憶。

 通り魔に刺されて死んだときの記憶が映し出される。


「辛かったら早めにな」

「大丈夫」


 これから何が映し出されるか想像できたからか気を使って声をかけてくれる。


 けど、その言葉には大丈夫と返させてもらう。

 今さらあの程度の流血沙汰で取り乱すほどやわな鍛え方してない。


「……そうか。それじゃシーン進めるぞ」


 アルの合図と共に世界が動き出す。

 そしてそのまま私が刺されて死に、この世界にいつの間にか半透明な体でこの世界に転移するところまでシーンが進む。


「ん〜……?なんだこれ」

「アルでも心当たりない?」

「……すまん分からない。記憶が無いのもあるが単純にこの状態を知らないと思う」

「そっか」


 まあ知らないなら仕方ない。魔術で記憶も操作されてるみたいだしな。


「それじゃもう少し進めていくぞ」

「わかった。あ、私のは十五年分あって長いからところどころ飛ばしていこう」

「だな」


 そこからは闇雲に走り回り、まだ赤ん坊だったこの体に転生したところまで場面を進める。


「……なあ、今普通に入り込んでたがこの体……死んでなかったか?」

「え、そうなの?」

「俺を召喚した爺さん曰く転移したあとの魂はよほど波長が合うか、肉体の持ち主が肉体を明け渡すのに合意するか、最初から魂が入ってなかった肉体じゃないと喚ばれた魂が乗り移れないなしい。赤ん坊が体を明け渡すとは思えないし実際赤ん坊には召喚できないらしい」

「つまり死産だった体に乗り移ったと」

「そうなるな」

「ふ〜ん……」


 正直ちょっと心配だったんだよな。一人の女の子の人生を奪った可能性がありそうで。

 まあこれで安心……は違うか。


 うん、そうだな……色々思うところはあるがもう結構好き勝手やってるしこの体の女の子の分まで楽しく生きよう。


 そう勝手に納得してるうちに世界が次のシーンに移り変わる。


「ふ〜ん……普通の家庭で育ったのか。でもなんか……子供っぽくないな」

「だろうね。中身は普通に学生だったからね」

「よく周りに不自然に思われなかったな」

「田舎だったからね。ちょっと個性強めなお子さんくらいに思われてたんじゃない?」

「そんなもんかなぁ……」

「まあまあ、そんなこと置いとこうよ、些細なことだし」

「う〜ん……ま、そうだな。もうちょっと進めるか」


 そういうのは十五年生きた記憶を持って転生してる時点で隠しきれないところあるだろうし今さら気にしても仕方ないのだ。



 そうして少しずつ、私が生きてきた世界を二人で観ていく。

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