2-6 鬼ごっこ
おかしい
さっきから何枚も《氷壁》を作って妨害してるのに作ったそばからすぐ溶かされる。
私が同じように溶かそうと思えば1時間はかかる。
それを魔力切れの素振りもなく何回も溶かしてくる。
異常、その一言に尽きる火力の高さだ。
流石にこのまま続けてればこっちの魔力が切れる。
プライバシーの観点から控えてたが『ステータス』でヒナの手の内を明かさないとこのままだと追いつかれる。
仕方ない、申し訳ないが覗かせてもらおう。
名前:ヒナ
HP:252/252 魔力:156/358
レベル:8
職業:学生
状態:《火炎収束》
ステータス:《筋力:Lv8》《体力:Lv7》《技量:Lv3》《速度:Lv7》《知能:Lv5》《魔力:Lv14》
先天属性:火
先天スキル:《火魔術:Lv20》《狩り:Lv4》
後天スキル:《魔術:Lv6》《体術:Lv5》《観察眼:Lv3》《料理:Lv4》《野営術:Lv6》
やっぱり先天属性は火だったか。
しかしなんだ《火魔術:Lv20》って。
それにまだ魔力が半分ほど残ってる。
私はもう残り魔力が132/431しか残ってない。
この2年で先天スキルのLvも上げることができるのは確認済みだがそれでも意識して伸ばしてきた私の氷魔術でもまだLv13だ。
圧倒的な才覚──試験を突破しただけはあるんだろう。
それにあの状態──火炎収束、おそらくあの状態が燃費と火力を底上げしてる。
どうする、このまま押し合ってもこっちの魔力が切れて終わりだ。
そうなったら別の誰かを追い直すこともできない。
しかしこのまま逃げてもジリ貧だ。相性が悪すぎる。
となったら取れる手は少ない。
やるべきは──マルクと同じ方向に逃げて時間を稼ぐ。
「『凍えろ』!《凍気》!《氷壁》!」
凍気で気温を下げて火の温度を下げて妨害をかける。
その上で今までで一番分厚い氷壁を張る。
ここでこの2年で身につけた血魔術を発動させる。
ただ先天属性が2つあるのがバレるのは避けたいので適当に陣を描く。
「『血強化/筋力増強』!」
溜まった疲労を吹き飛ばし筋力と速度に補正をかける。
「え、ちょ!早っ」
驚くヒナを置いて加速する。
目指すは作り出した高台の上で余裕な態度のマルクだ。
ああ、クソ、ここまで複数の魔術を同時発動すると魔力の消費が大きすぎる。
しかしここで足を止めても勝ち目はない。ジリ貧だ。
「『氷造形』《突起》!」
消費魔力を最大限に抑えながら作り出した大振りな氷の針をマルクの土壁に突き刺し登る。
「ちょっとまて、こっちに来るな」
「ごめん、こうでもしないと勝ち目がない。嫌でも協力して貰うよ」
もちろんヒナは追ってきてる。
しかしヒナにこの壁を超える手段がないのは確認済みだ。
「ちょっと!ふたりとも降りてきてよ!」
「嫌だな」
「嫌です」
「え〜!」
さすがに今度ばかりはヒナも打つ手なしだろう。
ていうかもう何もしないでくれ。
もう残り魔力はほとんどない。
「先生、もう終わりにしましょう」
「レイチェル、お前が言うか」
尤もだ。私は人の魔術を無断で借りてるだけに過ぎない。
しかしマルクが魔術を解除して私を落とさないのは多分攻撃禁止のルールに反すると思ってるのか、それとも同じ方法で登って来られると思ってるのか、真意は分からないが落とさないなら状況は変わらない。
「そうねぇ、まあ、仕方ないか。今回はマルク君、レイチェルちゃんの勝ちです。三人とも怪我は無いですね、怪我した場合はすぐに言うように」
ふう、なんとか勝った。
しかしまだただの遊びなのにいろいろ手の内を出しすぎた感じはある。
まあこれから伸ばさなきゃいけない物なんだから隠してもどうしようもないか。
「じゃあこれから着替えて昼食にします。食べたあとはいろんな課外を見学しに行きましょう」
初授業──鬼ごっこはなんとか勝ちで終わった。