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6-6 ある時代の記憶 中編

「っと、さっきのシーン大丈夫そうだったからちょっとやり方を変える」

「?」

「こっから先はナレーションするのちょっとめんどくさいからな、俺の血を飲んでもらってそれを伝って実際の状況や感情を流し込む。もちろん加減はするがちょっと刺激が強い。だからさっきは止めといたんだが大丈夫そうだしやってみよう」

「わかった」


 了承の意を返すのを確認した後にアルの指の先から血が流れ始め、滴り落ちる。

 けどそれは床に着くことはなく、空中で一つの塊となって静止する。


 その血の塊をアルが操り、私の口に運んでくる。

 その血の塊を私は抵抗することなく口の中に運び込まれるのを待ち、口いっぱいに血の鉄の味が広がるのを感じながら飲み込む。


 本来なら不快なはずの味だが、不思議とするりと喉を通り、体内に流れ落ちた。


「よし、それじゃ行くぞ。……さっきも言ったが刺激が強い。無理そうなら早めにな」

「大丈夫。映して」

「わかった」


 私の声に促されるまま、黒一色のスクリーンに新しい世界が映し出される。




「ん......ここは……そういえば俺……チッ、夢じゃないか……」


 目覚めるのと同時に男は、過去のアルは独り言をこぼす。


 こんな異常な状況なら誰でも抱く考えで、誰もいない静かな空間ならストレスを吐き出すため喉からその問いが吐き出されるのは当たり前のことと言えるだろう。

 むしろすぐに走り出したり、暴れ出さず、叫びもしないだけよくやってるだろう。


「お目覚めですか?」

「……誰だ」

「勇者様の身の回りのお世話のさせていただく召使いでございます。ミサとお呼びください」

「そうか……」


 目が覚めたのを察してか、ミサと名乗るメイドがノックとともに部屋に入ってくる。


「……なあ、俺、なんでこんなとこ居るんだ?部屋で原稿書いてたはずなんだが……」

「私からは王宮魔導師長様のお力によって呼ばれた、ということしか分かりません。お役に立てず、申し訳ありません」

「そうか……」


 王宮魔導師長……多分あの爺さんだな。

 えらく高圧的だったが名前から察するに本当に偉い人なのかな。


 そんなことを考える……が、そう考えれば考えるほど帰れないという発言が現実味を帯びてくるのでこの事は考えないようにする。


「お目覚めの直後で申し訳ないのですが、国王様から勇者様がお目覚めになられたら連れてくるよう言われておりますので、国王様のお待ちになられているお部屋まで案内させていただきます」

「……そうかよ」


 半ば投げやりに返事を返す。


 一回睡眠を挟み、執筆作業と突然の異常事態で茹だった頭が冷静になったせいか、この状況に抗うのは無駄だということを理解してしまった。


 本当はこのまま少し歪なこのベッドで惰眠を貪り、このたちの悪い夢が覚めるのを待ちたいところだが、冷静になったせいでこれが夢じゃないということを嫌でも理解してしまう。


 諦めと、絶望を胸のうちに秘めながら体を起こし、立ち上がろうとした時──


「……なんでスカート?」

「すかーと?」

「英語は伝わらないのか……?まあいい、この服のことだ。なんで女物の服を着せられてるんだ?」


 趣味の悪いやつがわざわざ着せたのかと疑いつつ質問を投げかける。


「なぜと言われましても……王宮ではそのお召し物が女性の正装ですのでこちらで用意させていただいたのですが……」

「それこそなんでだよ?なんで男の俺に女の服を着せる必要があるんだ?」

「え?あ〜……勇者様、そちらの姿見をご覧になってください」

「姿見?確かに身だしなみは整えてなかったがそんな変なと、こ……」


 そこでようやく自分の姿を、体を見る。


 知らない女の子の顔、明らかに低くなった身長、女者の服に身を包み、自分の動きと連動して動く鏡像の姿を認識する。


「はぁ!?」


 ここに来てから体に違和感は感じてたがその想定の何倍もの異常を前に呆然としてしまう。

 なんで自分が女になってるのか、そのことで頭がいっぱいになる。


「勇者様、もしかして男性の方でしたか?」

「そうだよ!なんで女になってるんだよ!?」

「詳しい事情は王宮魔導師長様から説明されるかと。……別のお召し物を用意いたしましょうか?」

「頼む……」


 俺の願いを聞いてミサは部屋から出て、数分ほどで数着の燕尾服を手に戻って来る。


「大きさの合うものを何着か用意いたしましたのでこの中から好きなものをお選びください。私は外で待っております」

「わかった」


 ミサが退室したのを確認してから適当な服を掴み、着替える。


「うわ……マジかぁ……」


 着替えるために自分の体が本当に女の体になってるのを見てしまい、改めて自分がとんでもない異常事態に直面していることを理解する。


「まさか初めて見る女の体が自分とはなぁ……」


 ある種の諦めと失望を抱きながら適当に掴んだ服に着替え、部屋を出て、外で待っているミサと合流する。


「それでは、国王様の所へ案内させていただきます」

「頼む」



 この状況を引き起こした人に、色々問いただすためファンタジーな宮殿の廊下を歩き出す。

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