6-2 対応
「お久しぶりです、バルディア様」
「久しぶりだな、カイ。それで、要件はなんだ。急ぎの用なのだろう?」
「こちらの少女、アルカディア・ムーンライトについてです」
「ふむ、見た目はただの少女だが......お前がわざわざ私を呼びつけたんだ、何かあるのだろう。説明してみろ」
「はい。アルカディアは私達の眼の前で生まれました」
「生まれた、とはどういう意味だ」
「そのままの意味です。迷宮から突然大量の魔力が吹き出し、一つの魔石を核にこの少女を作り上げたんです」
「ふむ......そのような現象は聞いたことがないな。心当たりはあるか?」
「俺にも心当たりはありません。それよりそういうことはレイチェルの方が詳しいかと」
アルカディアについて情報を共有したあと、意見を求めて私にスポットライトが当たる。
ここで私に話振ってくるかぁ......
「レイチェル......お前が引き抜いてきた者か。ではレイチェル、何か思いあたる節はあるか?」
意見を求める問いかけに対して必死に頭を働かせ、知識を絞り出す。
「......現在最も有力視されてる魔物の生体構造に近いと思います」
「ほう、どのようなところが?」
「魔石を核にして体を形作っているという点と、その体を魔力で構築しているという点です」
「報告どおりなら確かにそうだろうな」
心の中で胸をなでおろす。
色々経験して並大抵のことじゃ緊張なんてしないと思ってたけどこういう言葉一つで色々左右するような場面だと流石に緊張するな.....特に目上の人に対しては。
卒論とかは書かなかったが前世の大学生はこういう気持ちだったんだろうか......
「それと、不死鳥の卵という聖遺物を所持してます。無理に奪えば暴走すると言ってます」
「それは真か?」
アルカディアに視線を向け、事の真偽を問いただす。
「はい、私が知る限りだと」
「そうか……ふむ、概ね事態は把握できた。ここまで様々な意見と情報が出たがお前自身はどうしたい、アルカディアよ」
「私は......正直何がなんだか......皆さんが言うように私があの場所で生まれたとき、知らない情報が頭の中に無理やり詰め込まれたような感じで......私がなんであそこにいたのかとか、色んな情報があるんですけど、もう少し整理してからじゃないとなんとも......詰め込まれたのとは逆に魔術で思い出せないようにされたような不自然なところもありますし、改めて整理する時間が欲しいです」
「そうか......」
全てを見透かしているかのような瞳を瞼で隠し、十秒ほど思考に耽る。
「我々と対等に会話し、要求を述べるだけの知性はある。ならば、その奇怪さだけで魔物と断じ殺すのは野蛮が過ぎるだろう。未知の現象の重要な参考人兼、当事者として当ギルド『アンブロシア』に迎え入れよう」
「はぁ〜……」
ひとまず自分の安全が確保され緊張が解けたようにアルカディアは肺の中の空気を全て吐き出す。
ただ──
「ただし、持つ情報全てを説明すること、迷宮への不法侵入や魔物の疑いといった身の潔白を証明できるまで常に監視をつけることに加え、魔道具で常に位置をこちらで把握させてもらう」
そんなアルカディアを他所に交換条件を付け足す。
「構いません」
本来ならプライバシーの侵害もいいところな条件を、ノータイムで飲み込む。
「ただ……出来れば同性の方がいいです」
ここだ。攻めるならここしかない。
アルカディアとはどこかで一対一、誰にも聴かれない場所で腹を割って話したい。
台座のギミックといい、『転移者』という独り言といい聞きたいことが沢山ある。
何がなんでも、この監視役に選ばれなければ。
「わかった。それくらいは受け入れよう。ふむ……この情報はあまり広げたくない。できるなら当事者だけで対応したいのだが……女性は三人だけか。誰か……」
「はい、私がやります」
「レイチェル、良いのか?」
「大丈夫です。それに索敵に長けた魔術を使えて、本人の希望に沿ってる私が適任だと思います」
「そうか。では、レイチェル、お前にアルカディア・ムーンライトの監視役を任命する」
「わかりました」
案外すんなり行ったな。
まあ誰もこんな厄ネタ引き取りたくはないわな。
私としては好都合だけど。
「それでは後ほど援助金を後で渡そう。この後アルカディアについて会議を開く。そこで今後の対応が変わる可能性もあるので留意しておくように」
「分かりました」
「それと──」
一拍置いて、引き出しから白金色の徽章を取り出しながら告げる。
「諸君らの未知への探求と、その成果を認め、白金階級へ昇格させよう」
「ありがとうございます……」
各々徽章を受け取り、胸元の金の徽章と交換する。
こんなポンと渡していいやつだっけこれ……
「それでは、任務を遂行せよ」
「はい!」
アルカディアを私が監視し、身の潔白を証明させるという結論で話が終わり、部屋を後にする。
さて、本番はこれからだ。