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6-1 謎の少女

 助けてくれ、アルカディア・ムーンライトと名乗った少女は確かにそういった。


「助けてくれ?一体どういう意味だ!」

「そのままの意味だ。私はここがどこかもよく分かってないし、ここで死にたくない。だからせめて考える時間と、話し合う時間を設けて、外に連れて行ってくれないか?」


 文字通り、助けを求めているということを白状する。

 けど、その言葉を素直に受け入れられるほど余裕のある空気感じゃなかった。


 まず少女が目の前で作られたこと、これを見たせいで少女を人間として捉えられない。

 大量の魔力が少女に変生したという未知の現象からこの少女が人間ではなく魔物の類のものであるという考えが脳みそにこびりついて剥がれない。


 まず戦闘、もしくは捕縛か撤退という選択肢が脳裏に浮かぶ。


 けど、それで本当にいいのだろうか?


 少なくとも会話が成立するだけの知性があるのはわかってる。

 その上で助けを求めてる。

 ここに至るまでの記憶がないみたいだし、戦いになるのを怯えてるようにも見える。

 果たしてそんな人に暴力を振るうのはいかがなものかという良心が働く。


 そんな合理性と良心がせめぎ合うこと約十秒、敵対するか手を貸すか、その判断を仰ぐため視線が一箇所に集まる。


 ここまでの探索で音頭を取っていたカイさんにだ。


「......レイチェル、マルク、こいつ武器持ってるか?」

「いえ......武器らしいものは何も。ただ......聖遺物っぽいものを持ってます」

「俺も同じです。あいつの懐から明らかにやばい反応があります」

「そうか......おい!その聖遺物を出せ!」

「せ、聖遺物......?──これか?」


 一瞬なんのことかわからなかったみたいだが心当たりがあったらしく、懐をまさぐり、一つの赤い卵を取り出す。


「『ステータス』......これは不死鳥(フェニックス)の卵、魔力を流すと孵化して所有者の命令に従う使い魔になる、所有者、もしくは貸与者の手から離れた場合暴走する......らしい」

「なんだらしいって!はっきり言え!」

「私にもわかんないんだ。こんなもの持ってた覚えはないし使い方も今知った」

「はぁ!?んだそれ!じゃあなんでそんなすらすら説明できたんだよ!?」

「『ステータス』術式のおかげだ。知らないのか?」

「ステータスって教会のあれか?」

「その教会が何かは知らないが多分同じものだ」

「......どう思う」

「......多分同じものです。物に使えるのかはわからないですけど、教会で見たものとほとんど同じ魔法陣に視えました」

「お前がそう視えたって言うんなら同じなんだろう。ただあの教会の術式って……」

「はい、あれを使えるのはそれを専門に研究し、複製しているごく一部の専門家ぐらいだったはずです。あいつ、かなりの使い手かもしれません」

「そうか……」


 目を閉じ、思考に集中し始める。

 そして、十秒ほど考え込んだ後──


「おい!助けてやってもいい。だが、条件がある!それを呑むなら手を貸してやってもいい!」

「条件……まあ仕方ないか……聞かせてください」

「この毒を飲め!」

「……効果を聞いても?」

「魔力の操作ができなるなるだけだ!死にはしない!」

「……わかりました」


 了承を得るのと同時に瓶を投げ渡し、少女はその中身を一気に呷る。


「まず……はぁ、飲みましたよ」

「よし、なら地上にこいつを連れて帰る。地上に帰った後の対応はギルドの判断を仰ぐ形になると思う。だからしばらくは色々迷惑かけることになると思う。すまんな」

「仕方ないです。それよりあいつを地上に連れて帰ることの方が重要じゃないですか?」

「……そうだな。おい!お前ここがどういう場所かよく分かんねぇんだよな?」

「はい、大雑把なことしか」

「ここは地下で、上は地上に出るまで凶悪な魔物でいっぱいだ。助けると約束した以上守りはするが無傷までは保証できない。ある程度は自力で避けて貰う必要がある」

「分かりました」

「よし、それじゃ行くぞ」


 謎の少女、アルカディアを隊列の真ん中に置き、監視と護衛を兼ねながら地上を目指して歩き出す。



















「というわけで、一応拘束はしてるが俺達じゃ手に余る。上の人を呼んでくれ」

「……わかりました」


 注目を集めながら受け付けにアルカディアを運び込み、判断を仰ぐためギルドの上層部の人間に取り次ぐように頼み込む。


 緊急事態ということを察してくれたのか全ての業務を止め、私達を優先して動いてくれてる。

 本当にありがたい。


「連絡取れました。今からでも面会できるそうです」

「誰が来れるんだ?」

「ギルド長、バルディア・ヴァルス様です」


 この事態の把握と収拾のため、この組織で一番上の人物であり、マルクの父親の名前が挙がる。


「それでは、こちらへ」


 案内されるままに奥へ足を進める。



 ある種の安心感と、緊張感と、この事態の当事者としての責任を胸に歩き出す。

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