5-74 提案
「おお……また珍しいものを持ってきましたね……」
火と地の精霊の魔石を受け付けのお姉さんに渡す。
迷宮石人のより高く買ってくれるし本当に珍しいんだろう。
「火精霊と地精霊ですね……あ、確か火精霊の方は依頼が張り出されてましたしそちらを通して納品していただくとより高く売れますよ」
「そうなんですか?」
「はい。ええと……ああ、ありました。これです」
依頼が張り出されているコルクボードから一枚の紙をちぎり見せてくれる。
内容は──
『八層以降に出没する火の精霊の魔石を納品してほしい。研究に使うのでできるだけ質のいいものを。
王国魔導学会より 階級 金以上』
王国魔導学会といえば学問で名を挙げる魔術師、上位魔術師の集団だ。
それもその研究内容のトップばかりという話だ。
そんなところからも依頼が来るのか……自力で取りに来たほうが安そうだけどな……
「こちら王国魔導学会からの依頼ですね。報酬はこちらに記載されてますね」
「えぇっと……は?」
何だこの法外な桁の金額。
金貨通り越して白金貨とは……お金ってあるところにはあるものなんだな……
「こちらの魔石なら品質も問題ないと思いますし受注されてはいかがでしょうか?」
「……そう、ですね。お願いします」
「かしこまりました。ではこちらの書類に著名をお願いします」
「わかりました……」
ペンを握る手が震える。
なんでこんな額の書類をそんな当たり前の事のように扱えるんだこの人……
「はい、ありがとうございます。では報酬は後日支払われますので一週間ほどお待ち下さい」
「わかりました」
震える手でなんとか自分の名前を綴り終え、書類を渡す。
ゼノさんの時はすぐに貰えたけど今回は額が額なだけに今すぐにとはいかないのだろう。
まあ別に生活が苦しいわけじゃないし大人しく待っとこう。
というか完全に予想外の収入だしほんと運が良かったな。
「それでは残りの魔石の分のお金になります」
「ありがとうございます」
硬貨の山を四等分し、各々財布にしまって受け付けを後にする。
「これからどうする?」
「このまま夕食でもいいんじゃないか?迷宮内で保存食齧ってたとはいえさすがにな」
「お腹減った〜!」
「そうだね……時間も結構遅いしこのまま行こっか」
今日の稼ぎを手にそのまま酒場に向かう。
「え〜っと……あ、あった」
さすがにこの時間帯は結構混んでるな……四つまとまって空いてるのは結構運が良かったな。
「はぁ〜疲れた……」
「お疲れ様」
「お疲れ」
「お疲れ〜」
「お疲れ様」
「ありがとう……ってカイさん!?なんでそんな自然に混ざってこれるんですか……」
居るはずのない四人目の労いの声が聞こえたと思ったらその主はカイさんだった。
「いや、たまたま見かけたし声かけとこうと思ってな。あ、相席してもいいか?」
「ああはい、それはもちろん」
「いや〜この時間帯はやっぱ混むな。知り合いの隣が空いてるとは運が良かったな」
ほんと自然に入ってきて自然に会話するよな……そのコミュ力が羨ましい。
「それで、お前らその格好迷宮帰りだろ。せっかくあったんだし進捗聞かせてくれよ」
「わかりました」
注文を終え、メニューを片付けたあと、私たちの進捗が話題に上がる。
その問いに促されるまま、私たちの冒険を語る。
「この街に来て二週間くらいの新人がもうそんなところまで行ってるとはねぇ……いやぁ才能溢れる若人が怖いわ」
「はは……」
「ありがとうございます」
「恐縮です」
「ふふんっ」
私は遠慮がちに話を合わせ、ベインとマルクは謙遜し、ヒナは褒められたことが嬉しいのか満面の笑みを浮かべている。
「マルク、ベイン、お前らも謙遜することないんだぞ?ほら、そこのヒナみたいに胸張って笑っていいんだぞ?」
「いえいえ、何年も冒険者をやって生き残ってる大先輩のカイさんには頭が上がりません」
「またまた貴族じみた言い訳しちゃって〜」
「いえいえ」
このやり取り何度目だろ……
そこで私と同じことを考え、泥沼にはまると思ったのかカイさんが話題を変える。
「……いい事思いついた!お前ら、明日も迷宮行くか?」
「はい、その予定です」
「ならちょっと急で悪いんだが明日俺達と組んでくれないか?」
「……本当に急ですね……理由を聞いても?」
「単純な話なんだがな、俺が早く十層に行きたいってだけだ。そのためにお前たちの力を借りたい」
「わかりました。マルク、ベイン、ヒナ、どうする?」
「俺は構わない。というか喜んでと言いたいところだ」
「俺も平気だ。心強い仲間が増えるだけだしな」
「私もいいよ〜!」
「決まりましたね……明日はよろしくお願いします」
「ああ!よろしくな!」
唐突な合同探索の提案を呑み、明日の予定が大きく変わる。
カイさんのパーティーの四人と私たちで八人パーティーになるんだろうか。
もうすでに不安と楽しみが混ざった不思議な感情が溢れてくる。
明日はどうなるんだろうな……