5-73 火地種精霊戦
「くらえっ!」
先陣を切るようにマルクが魔力の籠もった鉄球を地精霊相手に投げつける──が、かつんという子気味のいい音と共に弾かれ、風精霊のように体内まで入り込むことはなかった。
「こいつ……実体があるの!?」
「今の音……空洞じゃない!確実に実体がある!」
「私も実体があるように視える!」
ヒナの疑問に二人で答える。
《空間把握》と身体強化によって強化された聴力が、その答えを導き出していた。
「くっ──仕方ない!離れろ!」
思考を回し始めた私たちに水を指すようにマルクの声が響く。
マルクが投げた魔導榴弾が起爆のアナウンスを開始していた。
私は視えてるので平気だがヒナもしっかり把握できてるとは限らないし、安全圏まで下がれという意味での気遣いだろう。
その忠告に従い全員が下がる。
そしてそれと同時に籠められた地属性の魔力が炸裂する。
鉄球を中心に半透明な結晶が一気に伸び、精霊の体を穿つ。
「っ──あれ?ひび入ってない?」
「だな。思ったより脆いのか……」
「魔導榴弾の破壊力が凄まじいのか、だな。まあ多分後者だと思うが」
「私もそう思う……ってレイチェルちゃん!」
「大丈夫だよ。《氷結》」
火精霊が放ってきた炎を冷気で相殺する。
得意の土俵で戦えるなら私でも戦えるし、こいつは溜めずに数で勝負してくるタイプだ。
それなら、私でも戦える。
「さっきと同じで火精霊は私が相手する!」
「了解!それじゃ地精霊は俺達で片付けるぞ!」
「わかった──っ!?レイチェル!」
駆け出すのと同時に名前を呼ばれる。
精霊の攻撃への忠告だろう。
けど、一匹はもうマルクが抑えてくれてるし、《空間把握》のおかげでその攻撃の軌道は読み切ってる。
「大丈夫!《飛翔氷剣・騎士団》!」
氷晶の剣を五本作り出し、火精霊が放ってきた炎を躱し、地精霊が撃ち込んできた岩の弾を弾き落とす。
これと《空間把握》の使い方はこの五年でかなり上達したな……そのおかげで色々できる。
まず最初に二本の剣を片方の火精霊の炎の体に突き刺す。が──
「っ──溶けた!?」
たった一回、攻撃に使っただけで刀身が溶けてしまった。
かなり魔力を込めたはずなんだけどな……想像以上に体内の炎の魔力が濃いのかもしれない。
なら──
「《飛翔氷剣・氷晶大剣》!」
残ってる三本を還元し、追加で魔力を込めて等身大の大剣に変化させる。
これだけ濃密な魔力を込めて作った大剣なら溶けずに両断できるはずだ。
「いっ、けぇぇぇえ!!」
できる限り強く、そして早く大剣を横薙ぎに振る。
もちろんより濃密な魔力の塊の炎をぶつけて抵抗してくるし、もう一匹が攻撃を仕掛けてくる。
だけど、そんなものは知らないと、遠慮も手加減もなく全て相殺していく。
その鍔迫り合いとも呼べる一瞬の時間を経て、一匹の精霊は両断される。
そしてそのまま慣性の乗った大剣を一回転するように振り回し、残ったもう一匹の火精霊も潰すように断ち切り、吹き飛ばす。
「ふぅ……そっち倒せた?」
「もっちろん!全然動かないから思いっきり吹き飛ばしたよ!」
「硬さに任せて回避しない戦い方だったからヒナが火力で吹っ飛ばしたな」
「俺が魔導榴弾を使う前に倒しちゃったもんな」
直接見なくてもどれだけ一方的な戦いだったのかよく分かる。
数的にも有利だったし最低限の攻防も成立してなかったんじゃないか?
「にしてもあの大剣凄かったね!あんなの作れたの?」
「まあね。色々練習してんだよ、こんな感じで」
手元の大剣を還元し、十本のダガーに作り替えて見せる。
「おぉ〜!」
軽く動かしながら一本ずつ還元し、魔力に戻す。
「上手くなったな」
「まあね〜......っと、魔石回収しないと」
曲芸見せるのも良いがこの層でそんなのんびりはしてられない。
「よし......とりあえず魔石は回収できたけどこれからどうする?私としてはある程度情報集まったし帰ってもいいと思うけど......」
「別に帰るなら反対はしない」
「俺もだ。というかそろそろ帰らないと時間不味くないか?」
「まあそうだね。じゃあ帰ろっか」
「わかった」
「了解」
「りょうか〜い!」
今回の戦いでまた色々情報が出揃った。
そのおかげでできることとやらなきゃ行けないことが増えたけど。
とりあえず疲れたな......早く帰って横になりたい。
そんな思いを胸に、戦利品と情報を手に、地上に向かって歩き出す。