5-72 第八階層、戦闘開始
「《灼竜砲》!」
ヒナを先頭に飛び出し、敵が私たちに反応する前に閃熱が空間を満たす。
気になる情報は精霊種のことだけだ。
だからこの一撃で消し炭になってくれれば前哨戦が無くなって楽なんだけど──
「っ……!ヒナ、下がって!」
「っ!了解!」
ヒナを呼び戻す。
それと同時に甲冑虫が突っ込んでくる。
先手の有利を手放すことになるが仕方ない。ここはヒナの安全が最優先だ。
「チッ!この炎を受けて生きてるのか!」
マルクが私たちと甲冑虫の間に割り込み、剣で弾き飛ばしながら声に出してこの状況に悪態をつく。
そしてそれに続くようにしてベインも甲冑虫を相手取る。
私も同じ意見だ。
ヒナの魔術を受けてビクともしないレベル魔物とは思ってなかった。
ただ文句ばっかり言っても勝ちには近づかない。
倒せてないとわかったなら次の手を打たなきゃいけない。
とりあえず、近くの二匹は二人に任せて蜥蜴に狙いを付ける。
「《霜獄の領域》!」
炎の嵐とは打って変わって今度は冷気が場を支配する。
ヒナの炎で駄目なら私が氷漬けにしてやる。
そう思い、攻撃を繰り出そうとした瞬間、炎が立ち上がる。
もちろんヒナではない。相反する属性を同時に使っても相殺し合うだけだから事前に互いに邪魔にならない術だけにすると決めてある。
だからこれは、敵の炎。
「予想通り透光蜥蜴の方に火精霊が入ってるっぽい!」
「だな!で、どうするんだ!このままレイがやるのか?」
「うん!少しでも情報が欲しいから試しにこのままやってみる!だから甲冑虫の方お願い!《氷結》!」
改めて指示を出しながら冷気を二匹の透光蜥蜴に集中させ、氷漬けにするのを試みる……が、炎によって抵抗される。
遠隔で倒し切るのは無理か……やっぱり接近戦に持ち込むしかないか。
なら──
「ふぅ……《魔力放出・冬霜》!」
ちょうどいい機会なので新技を試すことにする。
起動した魔力放出の術式は通常時の吹き出す魔力ではなく、伝うようにして氷の魔力で刀を強化する。
魔力放出の術式を理解することで広がった解釈と使い方を、刀を媒体にし、魔増具を介し増幅させてから現実に投影する。
これならより近くで、物理的な破壊力と同時に濃密な魔力も叩き込める。
血属性魔術による身体強化と魔力放出によるブーストを受け、今出せる最大の威力と速度の斬撃を放つ。
弧を描く鋼を覆う氷から、こう名付ける。
「『寒空』!」
青色の軌跡を描き、炎の抵抗を切り裂き、巨大な蜥蜴の胴を両断する。
「ふっ──はあぁぁぁあ!!」
刀を振り切った隙を突くようにもう一匹の蜥蜴が炎を吐く……が、それは《空間把握》で視えてる。
その炎を飛び越えるように跳躍し、がら空きな背中を遠慮なく断ち切る。
「よし……マルク?……ってそっちももう終わってるのね」
「はぁ……硬かった……ほんとこいつ何回やっても焼き切れないし……」
「お疲れ様。どんな能力だった?」
「地属性魔術で外骨格を強化しての体当たりだったな。棘も生やすせいで近づき辛いのなんの……」
「これは地属性で装甲作ったり無属性で障壁を作れないと相手するの難しいぞ……」
「なるほど……またなんか対策立てないとね……」
「だな……っと、来るぞ」
「うん。視えてる」
虫と蜥蜴の死体が魔石に変化し、中に寄生してたであろう精霊が四匹現れる。
二種類の精霊の属性は予想通り火と地だった。
それをもとに同じ属性をぶつけてかき消すか、相反する属性をぶつけて相殺するか、または違う倒し方がないか頭の中で考える。
ただ、そんなふうに考えられる時間はそう長くなかった。
前方に四か所、魔力の反応が発生する。
「魔導榴弾を中心に戦う!行くよ!」
「ああ!」
「了解!」
「了解!」
鉄球に魔力を詰め込み、精霊を倒すために各々動き出す。
未知の精霊種との戦闘が始まった。