5-70 炸裂
首の落ちた天風狼の体が魔石に変化し、半透明な翠緑色の精霊が浮かび出てくる。
「ベイン!魔力装填開始!目一杯詰め込んで!」
「了解!」
魔導榴弾にベインの風の魔力が注ぎ込まれていく。
全力かつ最速で流し込み、許容力いっぱいまで緑の魔力を詰め込む。
「これで満杯だ!いつでもいけるぞ!」
「了解!外殻術式を一秒に設定!そして即時投擲!」
「了解!」
薄い魔力が一瞬外殻を伝い、刻まれた術式が起動する。
「吹き飛べ!」
銀色に輝く球体が中を舞う。
その金属球は自然法則と投射のコントロールに従い、ほぼ一直線の軌跡を描きながら眼前の敵に向かって飛んでいく。
そして、設定した一秒が経過し──
『時限設定、刻限。炸裂開始──』
組み込まれたアナウンス機能が動作し、内部に込められた大量の魔力が放出される。
魔導榴弾を中心に魔力を帯びた暴風が吹き荒れる。
「おお……」
投擲という形式のおかげで遠距離からその威力を観測できる。
前回精霊が放った《幻想大森の嵐》とそう変わらない威力だ。
もちろんただ放出してるだけという都合上実際にぶつかり合ったら押し負けるだろう。
けどそれを踏まえても事前に用意し、携帯できるという利点のほうが大きい。
これならもっと研究して改良していけば精霊相手以外でも十分な効果が期待できる。
例えば射出用の道具を作ったり魔力の許容量を増やして火力を上げたり──っと、今は効果を確認するほうが優先だな。
「……うん、倒せてるね」
「まああの分なら余裕だろうな」
「なんなら過剰火力っぽいよ?」
「それを言ったら前回もだろ。んで、もう一匹はどうするんだ?」
仲間に目見向けず魔力のチャージを始めたもう一匹の精霊を指差し判断を仰いでくる。
「ん〜……せっかく出し属性違いも試してみようか。ヒナ、お願い」
「まっかせて!」
ヒナが手に持ってる魔導榴弾に全力で魔力を込め始める。
「あ、ちょっと……」
「ん?なに〜?」
「……いや、そのまま行っちゃって!」
「了解!え〜い!」
「よし、全員退避!」
「了解!」
「なんで止めなかったんだよ!?」
「いや、面白いかなって。まあもっと火力強いのも見ときたかったし。こんな実験できるの迷宮くらいだしね」
「ああクッソ!」
ベインは悪態をつき、この好奇心全開のやり取りを十年見続けてきたマルクは諦めて走り、実行犯の私とヒナは笑いながら走る。
『デッ、ド──、エン──イグニ、ション──』
掠れたアナウンスが聞こえる。
あ、もう駄目そう──
「あ、まずい。《魔術壁》」
溜め込んだ魔力が放出されるのと同時に太陽のような光の玉が出現し、まばゆい閃光が奔る。
咄嗟に指輪の術式を起動し爆風は凌げたが……
「おおう……」
「なあ、これは……」
「……レイ」
「うん、ヒナはこれ使っちゃ駄目ね」
「え!?」
「当たり前だろ……」
爆心地から離れてるおかげで余波を防ぐくらいならこの程度の術式でもなんとかなってるが……おそらく中心の温度は鉄が溶ける温度とか余裕で超えてるな……
魔増具仕込んだのは間違いだったか……
指輪に刻んだ魔術壁のおかげでこうやって観測できてるけど実際こんなもん撃たれたらたまったもんじゃない。
そうして白熱の光を観測し続けること十秒ほど。
「……やっと消えたか」
「うわぁ……これ魔導榴弾と一緒に魔石も溶けたっぽいね。もったいないな……使い切りにするつもりじゃなかったのに」
「はぁ!?魔石の破壊は一番やっちゃ駄目だろ!?破壊した場合中に溜まってた魔力が指向性を持たず暴走する!それくらい俺でも知ってるぞ!?」
「多分迷宮内だからそのまま迷宮に還元されたんだと思う。ほら、魔物の死体と同じで」
「んー……ありえるんじゃないか?」
「というか無くなったもの探してもしょうがないしね〜。それより先に進もうよ!」
「そうだね、実験はできたし進もっか」
「はぁ……ついていけねぇ……」
ベインをいろんな意味で置き去りにしながら前に進む。
やばいのはそうなんだけど安全マージンはちゃんと確保するから大丈夫……なはず。
とりあえず今は心配しても仕方ない。使えるものは安全な範囲で何でも使うスタンスで行こう。
天風狼と精霊種の対策を確立しながら暗闇の回廊を進む。