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5-66 術式解読

「どうだ?解読できそうか?」

「まだまだ時間かかりそう……精霊種対策にも使いたいから七層の探索は解読できるまで待ってほしい」

「わかった」


 今回は写しをそのまま使うわけにはいかないし無属性の術式は不慣れだからかなり時間がかかるだろうな……

 でもこれがあればできることが増えるし身につけておきたい。


 頑張らないとな……


「それじゃ、私部屋に戻るね」

「わかった。解読作業、頑張れよ」

「うん。ありがとう」

「ちゃんと寝なきゃ駄目だからね〜」

「気を付けるよ、ありがとう。それじゃ、また明日」

「また明日」

「また明日な」

「また明日ね〜」


 三人と別れ、部屋に戻る。


 この移動の時間も惜しいので早足で歩き、手早く扉を開け、拡張収納(マジックバッグ)から筆記用具を取り出しながら椅子に座る。


 明かりをつけ、机の上に広げっぱなしの資料を手に取り文字の羅列に目を通していく。

 けど、それだけで理解できるものは少ない。というよりほぼほぼ理解できない。


 術式に使われる言語は難解で、それを数式のように組み立ててある。

 私じゃ一つ一つ紙に書き出して時間をかけないと一歩も前に進まない。


 だから面倒くさいし、時間もかかる。


 早めに終わらせてしまいたいけど……そう簡単にはいかないだろうな。


 長丁場になりそうだ……


















「うぇ……ぜんっぜん終わんねぇ……」


 あれから四時間、時刻は夜の十二時を回り、ランタンの蝋燭は八本目に突入した。


 そして絶望的なことにまだ半分しか終わってない。


「あ〜くっそ……学院から資料くすねてくればよかった……」


 他の術式ならもう終わってるような時間なんだけどなぁ……やっぱり無属性っていうのが悪さしてる。


「大体なんなんだよ無属性って。魔法陣通して魔力に属性与えて指向性持たせるのが魔術だろ……根本からなんか違うじゃんお前……」


 ストレスと共に肺の中身を吐き出し、この陰鬱な空気を目一杯吸い込む。

 わかってはいたことだが深呼吸程度で気分は変わらず、あいかわらず疲労感と頭痛は抜けない。


「頭痛い……魔術薬(ポーション)……あった」


 瓶を取り出し、その中身を一気に呷る。


 胃の中に流し込んだ数秒後には効果が表れ、疲労感と頭痛を希釈してくれる。


「はぁ〜……愚痴ってても仕方ない、頑張ろ……せめてあと一時間、いや二時間はやらないと……それでわかんなかったら諦めて寝よ……」


 半ば諦めながらもペンと資料を手に取り、部分分けして紙に書き出していく。


 その一つ一つに込められた意味を理解し、今まで読み取ったものと繋げ、組み立て形を作っていく。


 さっきの魔術薬(ポーション)のおかげか、眠気と疲れが限界を通り越したのか不思議と苦痛は感じず、少しだけだが集中できる。


 紙に書き出し、文字の羅列とにらめっこし、分からなければ他の資料と見比べ、それでも分からなければその前に書き出したものとも見比べ関連性、規則性を洗い出す。


 そうやって見つけたと思った規則性や法則が次に書き出したところで違うと分かったり、また難解な術式とぶつかって心が折れそうになりながらも筆を握りしめ資料と向き合う。


 これがなければ先に進めない、チームの舵を握ってるという責任感で折れそうな心を繋ぎ止め、無理矢理にでも紙の束と向き合う。


 そうやってストレスで心と筆を折りながら悪戦苦闘すること追加四時間。


「で、できたぁ……うぇ……」


 寝不足とストレスで吐きそうな胃を抑えながら完成した紙の束、自作の解説書を掲げる。


 これがあれば忘れても思い出せるし、別の術式と繋げるのも楽になる。


 これで、前に進める。


 その事実と成果が、この莫大な達成感が、何よりも嬉しい。


 でも──


「集合時間まであと四十分……無理だ……」


 こんなコンデションじゃ迷宮探索どころか朝食にも勝てない。

 今日の探索は午後からにしてもらおう……


 通声機(ボイスコネクター)を取り出し、マルクに私た物の周波数に合わせて起動する。


 三回コール音が響き──


「どうしたんだ?」


 四回目の前にマルクの声が返ってくる。

 これほど集合時間より早く行動する習慣に感謝したことはないだろう。


「ごめん……解読してたんだけどなかなか終わらなくて結局寝れなくて……今日の探索は午後からでもいいかな……」

『わかった、二人には俺から伝えておく。……本当に午後からで大丈夫か?』

「たぶん……」

『……無理はするな。今日は寝とけ』

「いや……」

『寝とけ。なんだったら看病しに行こうか?』

「いやさすがにそれは……」

『じゃあ大人しく寝とけ』

「……ごめん」

『大丈夫だ。というよりこっちも無理させて悪かった』

「いや……マルクを巻き込むわけにもいかないしこれで良かったんだよ」

『逆だ。そういう大変なことこそときこそ一緒にやらせてくれ。一人で抱え込むな』

「……ごめん」

『次からは遠慮せず頼ってくれよ、俺達は仲間なんだからな。……それじゃ、おやすみ』

「うん……おやすみ」


 通声機(ボイスコネクター)を止め、拡張収納(マジックバッグ)に放り込む。


 また心配させたな……

 迷惑かけたくないって思ってやったことで心配させるとは……いや、こればっかりはマルクの方が正しい。無理して抱え込む必要も、こんな急いでやる必要もなかったな……


 先を急ぐ気持ちが暴走した結果がこれか……情けない。



 そんな情けなさと、ようやく休めるという安堵とともにベッドの上に倒れ込み、夢の中に意識を引きずり込まれる。

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