5-65 対策
「はぁ……つ、疲れたぁ……」
なんとか迷宮から出て、情報屋まで足を運んでいた。
あの精霊種について少しでも情報が欲しい。
ついでに食事も摂れるということで色々都合がよく、自然な流れでここに来ることになった。
「お疲れ様。何か食べれそうか?」
「うん。もう体調は良くなったよ。というか治った分空腹が強調されてやばい」
「私も〜……」
「ははっ、それじゃさっさと注文してしまおう。ベイン、決まったか?」
「ああ」
「二人は?」
「ん〜……私はこれで」
「私はこれ!」
「わかった、すいませ〜ん!」
マルクが厨房に向かって声をかけ、注文を伝えてくれる。
「それで、何かあったか?」
「いや、役に立ちそうなのは何も。というかまず五層以降の情報が少ない。七層なんて明らかな嘘しかないな。どこかの阿呆が見栄はって嘘言ったんだろう」
「そうか、情報がないのは知ってたが……現地ならあるいはと思ったがやっぱり駄目か」
「まあここで情報出回ってたら学会は何のためにお金払って冒険者雇って研究してるんだって話だしね〜」
「ま、だよなぁ。となると自力であれの対策するしかないわけだが……」
「とりあえず今日わかったことは物理攻撃が効かない、逆に魔術は効く、ある程度火力がないと倒せない、これくらいじゃない?」
「だな。ここから対策を考えなきゃいけないわけだが……正直魔術で戦うなら俺は加勢できないかもしれない」
「俺もだ。正直今日の戦いにも置いてかれてたしな」
「……わかった。一応考えはあるから精霊種対策は結論が出るまでちょっと待ってほしい」
「わかった。まあどっちみち俺たちからは口出しできないしな、そっちは任せる」
「ありがとう」
「あ、私何かやることある?」
「いや、ちょっと試してみたいことがあるからまだ大丈夫」
「りょうか〜い」
今回は魔術メインでの対策になるだろう。
近接戦闘メインで鍛えてきたマルクとベインは仕掛けの種にはできないかな。
となると仕掛け自体を私とヒナで作らなきゃいけないんだけど……種する予定の情報が学院から来るの待ちかな。
だから今は──
「お待たせしました」
「ありがとうございます。それじゃ、食べよっか」
この空腹を満たすことに集中する。
「いただきます」
手を合わせ、言葉を唱え、欲望のままに匙を動かす。
「おお……これはまた珍しい物を……」
「そんな珍しいんですか?」
「ええ、風精霊は──いえ、精霊を倒せる冒険者様は本当に少ないので。迷宮石人より希少ですよ」
「そうなんですね……あの、風精霊っていうのは?」
「迷宮石人と同じ仮称です。これも私たちが勝手にそう呼んでるだけなんですけどね」
「呼び名があったんですね……」
「はい、確か精霊種は他にも火精霊、水精霊、地精霊が確認されてたはずです」
「あと三種類も……他の人はどう対処してるか知りませんか?」
「え〜っと……主な対処法だとやっぱり手負いにして逃げるというのが主流ですね。時々こうやって仕留める方もいますが消耗が大きいと聞いてます。まあ最近はそうやって生き残った個体が知恵をつけて攻撃的になってると聞きますが」
「そうなんですね……」
やっぱり逃げるのが一番楽な手段か……でもその被害者?が知恵をつけて攻撃的になってるらしいし……というかそれ私たちが相手してたやつな気がする。明らかにあっちから攻撃しに来てたし。
迷宮石人はまだしも生き物相手にやるとこうなるのか……
さすがに同じこと繰り返してるとそのうち被害者産みそうだしなぁ……やっぱり仕留める方法を考えたほうがいいか。
「そろそろ換金してもよろしいでしょうか」
「あ、すいません」
「いえいえ、お役に立てたならよかったです。それではこちらになります」
「おお……ありがとうございます」
硬貨の山を受け取り、四等分する。
「あ、それとレイチェル様にお手紙が届いております」
「手紙?」
父さんたちか?それとも──
封筒を受け取り、その差出人の名前を見る。
『ランドラ魔術学院 ミシェルより』
私の母校の恩師からだった。
頼んでたものが届いたみたいだ。
これでまた色々できる。
「ありがとうございます。それじゃ、ちょっと急だけどここで解散でいい?」
「ああ。別に構わないがどうしたんだ?」
「ちょっとやらなきゃいけないことできちゃった」
「やらなきゃいけないこと?」
「うん。前話してた武器の加工、できるかも」
「……例の術式か!」
「うん。だから読み解くのに時間かかると思うから早めに手を付けときたいんだよね」
「わかった。そういうことなら頼む」
「うん。それじゃ、また後で」
「また後で」
「また後でね〜!」
封筒を握りしめ、部屋に戻る。
この封筒の中身は迷宮の情報と引き換えに金銭の他に要求したもの、魔力放出の術式の写しだろう。
身に付けられればすぐに戦力になる情報だ。すぐにでも解読しないと。