5-63 精霊種
《空間把握》に明らかな違和感が三匹映り込む。
それは、憶測だが太古の昔存在していたとされる精霊種、現代でもそれが何なのかわからない未知の生命体。
「精霊種!?……ってなんだっけ?」
「私もよくわかんない。学院の授業でも存在が言及されてるだけで具体的なことは何も……色々調べたけどもはや考古学の域だったし……」
「情報があるなら何でもいい。あるだけ話してくれ」
「わかった。私が読んだ本だと魔力の塊とか、大地の意思の表れとか、人工的に作り出された生物とか、とにかく本によって解釈も言及もバラバラ。ただ、一つ共通してるのが魔術に類する力を扱うって言及があった」
「魔術に類する力……となると今まで天風狼が使ってきた魔術はこいつらが使ってきたんじゃないか?」
「あ〜……」
天風狼の死体、他の二匹の死体からも出てきてる以上体内に潜んでいた、もしくは寄生していたと考えるのが自然だ。
ここまで使ってきた魔術は宿主を守るための手助けとかだったのかもしれない。
となるとこいつらは風属性の魔術を使ってくるのか?
「《風域》」
役に立つかはわからないが先手を打っておく。
風属性どうしが相殺しあうというなら多少は効果があるはずだ。
というかこいつら明らかに魔力を溜めてる。
絶対そのうち攻撃してくる。
となると──
「多分風属性の魔術を使ってくる。ベインは後ろで待機、何かあったら相殺お願い」
「……わかった」
「よし……それじゃ攻撃しよう」
攻めに出るしかない。
このまま放っておいても攻撃するか逃げるだろうし少しでも情報が欲しい。
せっかく精霊種なんてレアな生物?に出会ったんだ、ただで逃がすわけにはいかない。
「行くよ!」
「ああ!」
「了解!」
号令と同時に走り出す。
一番手前にいる一匹を集中して狙う。
「はぁっ!」
マルクが距離を詰め、刃を振るう──が、相手の肉を裂くことはなく、音を立てることもなく、ただただすり抜ける。
「っ──!?こいつ実体がない!?」
今のを視る限り、おそらくマルクの言った通り肉体がない。
《空間把握》で感じてた違和感はかこれか……
確かに言われてみればこの反応は物体というより魔力の反応に近い。
けど単なる魔力の反応じゃない……おそらく魔力で体を作ってるな。
肉体を伴わず、魔力に生きる生物か……面白い。
この世界の生物でもかなり異端、異例の存在だろう。
そんな生き物をどうやって倒すか──
「《暴風》!」
答はシンプル、今までと同じように魔術には魔術をぶつけて相殺する。
風属性の初歩中の初歩、誰でも使えるようなレベルの魔術を精霊は避けることなく、その体で受ける。
「っ──!マルク、ヒナ、今の……」
「ああ、確かに乱れた」
「私にもそう見えた」
「なら……こいつは多分肉体を伴わない分魔術に対する耐性が弱いんだと思う。魔術中心で攻めよう。ってことでヒナ!」
「了解!《灼竜砲》!」
私たちが下がったのと同時にヒナが魔術を放つ。
閃熱の嵐が視界を埋め尽くし、もはや精霊を狙ってか、この場所を焼くためか分からないほどの熱の塊が奔る。
「どうっ!?」
「っ──一匹反応が消えた!一回止めて!」
「了解!」
視界を埋め尽くしていた炎が一瞬にして消え、焼け焦げた回廊があらわになる。
そこには、翡翠の魔石と焼け焦げた二匹の精霊の姿があった。
天風狼の魔石は三つしっかり落ちてるし、新しく増えた翡翠色の魔石は精霊のものと考えて間違いないだろう。
「よし……!物理攻撃は効かなくても魔術なら効く!ヒナ!久しぶりにアレやるよ!」
「了解!」
大技の魔術なら倒せるという証拠が得られたので、本格的に大技を構築する。
放つのは五年前、懐かしの魔闘大会で使った、強力すぎて一人で扱えない術。
ただ、大技を構築してるのは相手も同じ。
つまりこれはどちらが先に構築を完成させるかの勝負。
まあもし間に合わなくてもベインとマルクが何とかしてくれるだろう。
その思いはヒナも同じみたいで、二人に全幅の信頼を置いて構築に集中できる。
全神経を構築に注ぎ込み、二人で一つの魔術を紡ぐ。




