5-56 メンテナンス
「お?レイチェルじゃねぇか、どうした?」
「装備のツケを返しに来ました」
「は?何言ってんだ、そんな簡単に稼げる額じゃなかっただろ」
「いえ、きっちり稼いできました」
「はぁ?」
「これお金です。確認お願いします」
「お、おう……ほんとに稼いできやがったよ……なんかヤバい仕事とかに手出したか?」
「出してません!真っ当に迷宮で魔物倒して稼いできました!」
「……マジかぁ……いくらなんでも早すぎねぇか?」
こんなに疑われるとは思ってなかった……確かに早いとは言われたがここまで言われるほどハイペースで潜ってたんだろうか……
「となると……お前達は今六層くらいか?」
「……はい、丁度今日六層に行ってきたところです。凄いですね……」
「勘だ。ってか六層つったらクソ面倒くせぇ迷宮石人ばっかの層じゃねぇか、どうやって稼いでんだ?」
「え、普通にその迷宮石人を倒してその魔石を売ったんてすけど……」
「……あれを倒しただと?」
「はい……何か問題ありましたか?」
「……ちょっと武器見せてみろ」
「は、はい……」
言われるがまま拡張収納から刀を取り出し、ダグラスさんに手渡す。
「ふむ……やっぱり刃毀れしてるな」
刀の刃を舐め回すように観察した後、独り言のように言葉が零れ落ちる。
「刃毀れ、ですか?そんな乱暴に使った覚えはないですし刃毀れしてるようには見えないんですけど……」
「ここだ、この刃の先のところだ。多分刺突に使っただろ」
「……よくわかりますね」
「これでも長いことここで鍛冶師やらしてもらってんだ、この程度見抜けねぇなら辞職するわ」
凄い自信だな……まあそれだけ多く、長い間の武器や装備を作り修復していたんだろう。
「ちょっと直していいか?料金はいらないが……」
「それはもちろん、お願いします」
この人なら任せられる。
ただ、一つだけ確認しなきゃいけないことがある。
「ただ、この刀魔法陣が刻まれてるんですけどそういう武器の修理ってやったこと……」
「ある。というかこの手のは刻みに触れなきゃただの刀だ」
「わかりました、お願いします」
ちゃんと仕組みを理解してるっぽいし任せて問題ないだろう。
「この程度なら軽く研磨するだけで直せるな……んじゃ、サクッと直すわ」
「お願いします」
研磨台を動かし、軽く当てたあと、手作業で刃を研いでいく。
そのどこまでも正確で、丁寧な仕事はもはや芸術の域だった。
「……よし、こんなもんだろ。ちょっと振ってみろ、それで違和感なければ終わりだ」
「わかりました」
刀を受け取り、ダグラスさんが居ない方向へ向き直り、正面に構え両手で振る。
「特に何もないです。研磨する前と何も変わらないくらいです」
「そうか、ならよかった。今度からは定期的に手入れに来い。本来刀は岩なんて斬るように作られてねぇからな、損傷も激しいはずだ」
「わかりました」
刀を鞘にしまいながら定期メンテナンスの約束をし、拡張収納にしまう。
「それじゃ、そろそろ失礼します」
「そうか、またなんか必要になったら来いよ」
「ありがとうございます。それじゃ、失礼します」
ここに来た目的は達成したし、長居するのも良くないと思い鍛冶場から立ち去る。
ツケは払えたし、おまけに刀の修理までしてくれた。ラッキーだったな。
「っと、そろそろ夕食の時間だな。ちょっと早いけど……まあいっか」
いつもの集合場所に向かって歩き出す。
「あ、来た」
「ごめんお待たせ〜」
「いや、こっちが早すぎただけだ」
「それより早く行こう。腹減った」
「だね。全員揃ったし行こっか」
酒場の中に入り、空いてる席に座る。
そして注文を決め、ウェイターを呼び注文を伝える。
料理が来るまでの暇な時間、その時間を埋めるために選んだ話題は──
「そういえばさ、さっきツケ返してきたんだよ」
「装備のか?」
「うん。迷宮石人の魔石でまとまったお金が入ったから返してきた。それで武器の修理もしてもらったんだよね」
「どっか壊れてたのか?」
「いや、迷宮石人とか斬ったせいで刃毀れしてたみたい。マルクも一回確認してもらったほうがいいかも」
「そうか……お金も払わなきゃいけないし俺もそのうち一回行かないとな」
「俺も一回行こうかな。武器の状態は勝敗に直結するしな」
「私も杖の調整しないと……というかできる場所あるのかな?」
「魔書店とかに持ち込んだら案外やってくれるかもよ?」
「あ〜」
「俺も一回調整行かないとな……もういつ久しく手入れしてないしどこかガタが来てそうだ」
「だね。私も行かないとな」
「あ、そういえば武器の手入れなら近くにいい店あるぞ」
「え、そうなの?一回その店にも行ってみようかな」
この空いた時間を使って情報を共有していく。
今はこの迷宮探索に真摯に向き合った会話がただただ心地よかった。