5-54 巨岩兵
「よし……行くよ!」
「おう!」
「ああ!」
「了解!」
号令と共に走り出す。
目指すのは先ほど迷宮から生まれ落ちた巨岩兵と出くわした場所。
「っ──!」
予想通り私たちが接近したのと同時にまた石造りの床から人型の巨岩兵が作られ、立ち塞がる。
「作戦通り行くよ!散開!《氷結拘束》!」
私たち四人が散らばったのと同時に迷宮に来る前から愛用している氷の茨が巨体を縛り付ける……が、予想通りすぐに砕かれる。
三、四層の魔物に砕かれるんだ、六層の魔物相手では一秒も縛り付けられないのはわかってた。
だから目的は行動を阻害することじゃない。
「こっちだ!『逆光に浮かぶ幻影』!《亡霊幻影》!」
光属性の魔術によって私の姿をした影法師を作り出し、岩石の巨人に向かって走り出す。
やることは注目を集め隙を作ること。
この巨人が目で周囲を把握してるのかは分からない。
けどできることは全部試す。そしてその上で効果的なものを探し出す。
「くっ──!」
巨人の拳が振り下ろされる。
そしてその狙いは幻影ではなく私。
その動きを見て身体強化を強め、跳躍したのと同時に轟音が鳴り響く。
危ない……紙一重の回避になっちゃった。結構早いな……
ただ危険に見合うだけの発見はあった。
「チッ──こいつ多分目で見てない!視覚以外の方法で感知してくる!それと攻撃したあとの動きが遅い!狙うなら攻撃させたあと!」
「わかった!じゃあ熱源探知の可能性を試してみる!《鬼火》!」
私の報告を踏まえ、熱源探知の可能性を試すためにヒナが火属性の魔術を放つ。
放たれたのは宙に浮かぶ炎の玉。
直接的な攻撃力はなく、ただ相手の周りを漂うだけの遊びのような魔術だ。
ただこんな場面では重宝する。
直接的な攻撃力がないからこそこの機械的に動く敵の習性を見極められる。
「っ──駄目だ!ヒナ、離れて!」
「了解!」
しかし結果は空振り、鬼火に反応することはなくその拳は私たちに向かって振り下ろされる。
一回目と同じように紙一重で回避し、なんとか事なきを得る。
視覚でもなければ熱源を感知してるわけでもない……ならあとは──
「このまま攻撃力してみる!炸裂!」
鬼火がヒナの命令を受け炸裂する。
その一つ一つが一般の魔術師の全力レベルの火力があるが……効いてない。
表面が焦げつきはしたものの破壊はおろか、行動に支障が出るような損傷にはならない。
やっぱり攻撃終わりの隙を狙うしかないか……
でもあんな紙一重の回避何回もやってたらいつか直撃しかねない。
となると感知方法を確定させ攻撃を空振らせるのが一番安全かつ確実か……
あと考えられる中で残ってるのは何だ……?
視覚でも熱源でもない。音源探知は常に飛び回ってるヒナより私を優先して攻撃してきたことに説明がつかない。
あと嗅覚……はないな。
となると何かの魔術で私たちを感知してるのか……?
となると候補は一つしかない。
「魔力放出!」
指向性を持たせず、その場に停滞するように魔力を放つ。
そして魔力を置き去りにしてその場から離れる。
「っ──やっぱり……」
さっきまで私が居た場所、魔力が残っている場所に向かって何度も拳を振り下ろし、轟音を響かせる。
「何やったんだ!?」
「こいつ多分微弱だけど《空間把握》を使ってる。私の魔力に弾かれたところだけ見えなくなって、それを異物か脅威って感知したんだと思う」
「なるほど……それがわかったならいくらでも隙は作れるな」
「うん、任せて。それじゃ、まず足から行くよ!」
「「「了解!」」」
狙いだけ定めて走り出し、魔力を残しながら飛び上がる。
そして推測通り魔力の残滓に向かって拳を振るい、隙を晒す。
その隙を、私たちは見逃さない。
「《緋炎剣》!」
「魔力放出!ハッ──!」
ヒナとベインが隙だらけの膝を斬りつけ、姿勢を崩す。
「硬っ……けどやっけやれないことはないね!レイチェルちゃん!」
「ありがとう!マルク!」
「ああ!『穿ち貫くは大地の怒り』!《大地隆起》!」
マルクの魔術によって地面が変形し、無防備となった巨人の胸を穿つ。
「ぐっ──やっぱり倒しきれなかったか……けど核は露出させた!レイ!頼む!」
「ありがとう!魔力放出!貫けぇぇぇええ!!」
無防備に露出した核に向かって刀を突き刺す。
さくりと音を立て、刀の刃が突き刺さり、巨人は抵抗を止め、その機能を停止する。
六層初の戦闘は勝利に終わった。