5-52 迷宮探索、第五階層
「よし、行こう!」
「今日はやけに気合入ってるね」
「そりゃそうだよ!昨日は私のせいで来れなかったんだもん!その分今日は頑張らなきゃ!」
「ほどほどにしとけよ。空回りして事故起こすのが一番危ない」
「わかってるよそれくらい!」
「まあまあ、やる気があるならそれに越したことはないし良いじゃないか」
「だよね!よし行こう!」
早足で歩き出すヒナを追いかけるように私たち三人も歩き出し、暗闇の中に身を投じる。
「よし、意外と早く来れたね」
「はぁ……はぁ……配分とか……考えて……?」
やばい、想像以上にヒナが人を引っ張るのが向いてない。
普段と違ってヒナが前に出てさっさと倒そうとするからそのフォローでこっちの体力と魔力がガンガン削れていく。
「でもなんとかなったじゃん?」
「ヒナはね……ここからは私が指示出すから」
「は〜い……」
しょんぼりとした表情で合意してくれる。
本人は好きなように動けて楽しいだろうがそれに合わせる側は滅茶苦茶キツい。
こんな戦い方続けてたら絶対事故るから五層に入る前にもとの戦い方に戻しとかないと。
「はぁ……よし、そろそろ動ける?」
「ああ」
「いけるぞ」
「よし、それじゃ行こう」
立ち上がり、階段を降りる。
「……とりあえず近くには何もいないかな」
「こっちもだ」
「俺も足音とかは聞こえない」
「じゃあ前みたいに視えないとかそういうやつじゃないみたいだね。進んでみよう」
「わかった」
「了解」
「了解!」
荒廃した石造りの回廊を罠を躱しながら進んでいく。
《空間把握》で視えてるから避けれるが、崩落した瓦礫の下に仕掛けられてたり、崩れたように見える物が罠だったり、誰が作ったのかは分からないが殺意の塊みたいな造りだな……
「おい」
「うん、わかってる。あの蜥蜴が三匹、そこの曲がり角曲がった先に居る」
「どうする?戦うか?」
「四層のと同じなら……というか絶対仲間呼ぶよね。どうするの?」
「う〜ん……魔術で透明化して横を通り抜けてみよう。あの蜥蜴に気づかれるかどうかはわかんないけど正面切って戦うよりいいと思う」
「わかった。あのトカゲが目で感知してるならいけるはずだ。ただ問題は……」
「嗅覚や聴覚が発達してたり、体温とかを感知される可能性だよね」
「ああ。まあ三匹程度なら全然平気だろうし逃げるだけの時間はある。あとはその場の状況に合わせるしかない」
「わかった。ヒナ、マルク、いける?」
「俺はいける」
「私も全然いけるよ〜!」
「わかった、それじゃいくよ。《透光迷彩》」
ヒナは飛ぶのをやめて地に足をつけ、私が全員に姿を隠す術式をかける。
そしてその術式が正しく機能してるのを確認し、歩き出す。
チロチロと舌を動かす蜥蜴の横を息を殺し、足音を殺し、できる限り迅速に足を動かす。
一秒、二秒、三秒、どれだけ急いでも静かにしなきゃいけないという前提がある以上どうしても時間がかかる。
そしてその途中で、目が合った気がした。
「っ──!」
漏れそうになる声を押し殺し、足を進める。
大丈夫、まだバレてない。気がしただけだ……
またそこから一秒、二秒、三秒と時間が経ち──
「はぁ……」
曲がり角を曲がり、完全に視線を切った瞬間に肺の中の空気を全部吐き出す。
「こ、怖ぁ……」
「緊張したね……でもこれで戦わなくても進めるのがわかった。あいつらとは戦ってもこっちが不利になるだけだし今度からは戦わず隠れて通り抜けよう」
「だな。あんな大量のトカゲと毎回戦ってたらキリがない」
「ああ。対処法もわかったしこれで本格的に六層を目指せるな」
「でもなぁ……戦いにならないってことは稼ぎにならないしつまらないし……」
「それはわかってる。だから早めに六層まで行きたい。その方針に何か言いたいことある?」
「俺はない」
「俺もだ」
「私も〜」
「ありがとう。それじゃ今日のうちに六層まで行こう」
「わかった」
「了解」
「了解!」
方針と対策を固め、六層に向かって歩き出す。
時間も体力も魔力も、私たちのリソースは有限。
できる限り効率的に、そして楽しく行こう。