5-50 趣味
「よし……こんなところかな」
透光蜥蜴の仲間を呼ぶ習性と五層の毒持ちの蜥蜴のことを記し、その紙を封筒に入れる。
これも投函しに行かないとな。
「んぅ……」
「あ、起きた?」
「おはよう……」
「おはよう。体調はどう?」
「ん〜だいぶマシになった」
「よかった。マルクが酒場でもらってきたお粥あるんだけど食べれそう?」
「うん」
「じゃあ温めるからちょっとまって」
「ありかとう」
お粥の入った器に魔術をかけ、熱を与えていく。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。いただきます」
とりあえず何か食べれるくらいには回復したみたいでよかった。
前世では酒を飲んだことがないし今世では二日酔いになるほど飲んだことがないから何が適切な対処かわからなかったが……良くなってきたみたいで良かった。
「ごちそうさまでした」
「お皿は私が返してくるよ」
「ありがとう……ほんとごめんね」
「いいよこのくらい。それよりお酒の加減を考えてくれると助かるんだけどな〜」
「うん……それはほんとごめん……」
今回の件で本人も反省したみたいだし次はこんなことにならない……はず。
「じゃあちょっとお皿返してくる。多分そのまま自分の部屋に帰ると思うから」
「わかった、私はまだ寝てるから。また夜ご飯の時間になったらいつもの場所に行くね」
「わかった。じゃあまた後でね」
「うん。また後で」
拡張収納と器を持ってヒナの部屋を出て鍵を閉める。
あ、このスペアキーも返さないとな。
「よし、これでもうやらなきゃいけないことは終わりかな」
自分の部屋に戻り、椅子に座り込んで一息つく。
色々あったがなんとかなってよかった。
「はぁ〜……やることないな」
ヒナの部屋にいた時もそうだったがこういう暇な時にやることがない。
というか思い返せばこの世界に来てから趣味というものが無い気がする。
強いて言うなら読書と魔術の練習、開発がこの世界での趣味にあたるのかもしれないが……紙自体が貴重だから図書館も少なく、魔術の研究や練習に関してはそれができる施設も場所も道具もないので不可能。
「う〜ん……駄目だ、何も思いつかない」
暇つぶしの一つも思いつかないとは……もしかして今世の人生って傍から見たら仙人みたいな生活してた?
「マジかぁ……」
思い返せば遊んでた記憶ってのがあんまりない。
というより魔術の練習や体作りの目的自体が興味本位、面白そうだから冒険者を目指す、という大きく見れば趣味の一環だったからなあ……
「ん……となると筋トレ走り込みが私の趣味にあたる?いやさすがにそれは……」
さすがにそれは一人の女の子としてどうなんだ……?
いや性別にこだわりというか、執着があるわけじゃないがこの世界に女として存在して、この世界に生きると決めた身としてはさすがになぁ……
「よし、なんか女の子らしい趣味探すか」
女の子らしい趣味探しをすることにする。
「となると何がある……?」
想像する女の子らしい趣味って言ったら……ショッピングとかどうだ?
服とかアクセサリーとか化粧品とか買いに行ってるイメージあるけど……そんな娯楽品に使えるお金はない。
あとは……駄目だ思いつかない……
というより科学や工業が発展してないこの世界じゃ前世の趣味や娯楽を再現できない。
マンガやゲームなんてもっての外、香水やアクセサリーなんかも手作り前提なので金欠の今手を出せる代物じゃない。
となるとお洒落とかは難しいか?
……いやできないことはないかもしれない。
「え〜っと……あった、髪ゴムとヘアピン」
拡張収納から髪ゴムとヘアピンを取り出し机の中に並べる。
お金をかけず、今あるものでできるお洒落、髪型だ。
せっかくこんなに伸びてるんだし練習してみるのも面白いかもしれない。
でもやり方分からないんだよなぁ……あ、そうだ。
「《空間把握》」
ギルドの外に向けて魔力を伸ばしていく。
「あ〜いたいた」
ギルドの外、お団子ヘアーの八百屋の店員を見つける。
ちょっと真似させてもらおう。
「ここを掴んでこうして……こんな感じか?」
うなじの少し上くらいでまとめてゴムで固定する。
「ん〜まあ初めてにしてはうまくいったほうじゃないか?もう少し練習すればマシなるはず……ちょっと練習するか」
一回まとめた髪を解き、何度か作り直してみる。
「ちょっと綺麗になってきたかな?他のも試してみるか」
《空間把握》で他の髪型の人を探して真似ていく。
これ意外と楽しいな……