2-2 出会い
試験が終わり、私達学生は一箇所に集められた。
会場には合否の不安が渦巻いている。
私だって不安だ。
筆記試験だって実技試験だってパフォーマンスが悪かったとは思わない。
今出せる最高に近い結果だったとすら思っている。
だがそれでも不安なものは不安だ。
結果が発表されるまでのこの1秒1秒が引き伸ばされたかのように長く感じる。
ああ…早く結果を聞かせてくれ…
ようやく一人の試験官が会場に入ってきた。
「それでは、試験の合否を発表する。まず上位魔術師から──」
早く言ってくれ、その気持ちで一杯になる。
そんな私を置いて試験官は合格者を発表する。
呼ばれた名前は6人。
……嘘だろ。
全員が全員上位魔術師や戦魔術師になりたい訳では無いので一定数試験を受けない者はいた。
それでも上位魔術師の試験も戦魔術師の試験も100を余裕で超える人数が受けていたはずだ。
それだけの人数受けて合格者はたったの6人──
上級職業への道のりがどれほど困難なものか実感する。
父さんめ、これは最初から冒険者にさせる気なかったな。
だが父さんがさせる気が無かったとはいえこの条件を出したことには変わりない。
要するに合格さえすればいいのだ。
ああそうだ。ここで合格さえすればに問答無用で夢を追いかけられる。
それに最初から受かるつもりでやってるんだ。
こんなところで不安になったって何も変わらない。
「次に戦魔術師の合格者を発表する。合格者は──」
早く、早く言ってくれ。
心臓がはち切れんばかりに鼓動してる。
ドクン、ドクン、引き伸ばされた時間の中でも心音だけが変わらず響く。
「マルク、レイチェル、ヒナ。以上三名のみが合格だ」
「よしっ!」
思わず声に出てしまったが人目を気にすることが出来ないくらいの興奮と安堵感で一杯だった。
「では上位魔術師の合格者6名、戦魔術師の合格者3名の9名はこれから別の教室に案内する。ついて来い。それ以外のものは別の教師が来るまで待機しろ」
喜びを胸に並ばされた列から抜け出し試験官について行く。
上位魔術師と戦魔術師は別の教室に案内された。
ということで私は男女1名ずつと教室で静かに座っている──つもりだったのだが女の子、多分私以外に呼ばれた二人のヒナの方だろう。
「えーっと、レイチェルちゃん、で合ってるよね?私はヒナ。よろしくね」
「はい、レイチェルです。よろしくお願いします」
黒髪のショートカットで身長は同じくらい。活発そうな女の子だ。
「ええと、そっちのはマルクよね。よろしく」
「ああ、よろしく」
「よろしくお願いします」
茶髪でツーブロック、身長は少し私より高いが…まあまだ子供だし比べても仕方ないだろう。
「二人はなんで戦魔術師目指してるの?」
「冒険者になるため、もっと言うなら父さんのギルドを継ぐためだ」
「冒険者になりたいって言ったら父さんに戦魔術師が条件って言われた」
「ふたりとも冒険者になりたくて来たの!?奇遇!私も冒険者になりたくて来たんだ」
………まさかの三人とも冒険者志望だった。
「……なんで冒険者になりたいの?」
上級職業になることの難しさはさっきの合格発表で体感したばかりだ。
その最初の狭き門を通った三人が冒険者という危険な職業を目指しているという異常事態に驚いて聞いてみる。
上級職業は国に直接雇ってもらえる。そんな提案を蹴って冒険者を目指す理由は?
「父さんが貴族なんだけど政治に興味ないから迷宮攻略を主な活動にしてる部門に所属してて、その父さんのギルドを継ぐために冒険者になりたいんだ」
「楽しそうだから!」
一方は目茶苦茶誠実な答えが帰ってきたかと思えばもう一方は目茶苦茶浪漫追い求めてた。
……人のこと言えないけど
「レイチェルちゃんは?」
「私も楽しそうだから、かな」
「じゃあちゃんと卒業できたら一緒に迷宮行こうね!」
「俺もすぐ継ぐわけじゃないから一緒に行くのもな」
ヒナはだいたい想像通りだがまさかマルクが乗ってくるとは思はなかった。
各々の目標とその理由を聞いたところで教室のドアが開く。
一人の教師が入ってきた。
「皆さんこんにちは。これから皆さんの担任を務めます、ミシェルです。よろしくね」
後ろで束ねた赤毛、皺のないスーツに身を包んだその姿は誠実さを感じる。
信頼できそうな先生だ。
「それじゃあ早速、この学校の説明をするわね」
重要そうな話が始まりそうだ。