5-44 五層を目指して
「よし、それじゃ作戦は午前中決めた通りで。じゃあ最終確認で……ヒナ、どんな作戦だったか説明してみて」
「え〜っと、大体今までと同じでマルクとベインの二人が後衛の私たちが攻撃する隙を作るのは変わらないけど、その隙を作ったり、前衛二人の援護でレイチェルちゃんが動くのが増える……って感じだったよね?」
「大体その通りだね。敵も強くなってる以上、今まで以上に守りを意識しないといけない。そこを意識して行こう」
「わかった」
「わかった」
「了解!」
「よし、それじゃ行こう」
軽く共通認識の確認を済ませ、迷宮の中へ入っていく。
今日の目標は五層に辿り着くこと。
金階級から探索が許可される階層なので金階級にふさわしい活躍をしたい、という思いに沿って手始めに五層まで行くことにした。
それに組み直した作戦がちゃんと機能するかという確認もある。
前回よりもっと深く、余裕を持って行けたら組み直しは成功したのが確認できるし、より深くまで行けなかったらまた改善点が見つかるはずだ。
今後の活動のためにも今回はこの目標を軸に探索していこう。
「よし、とりあえずここまで来れたね。一回休憩しようか」
四層へ降りる階段の前まで辿り着き、一度小休止を挟む。
『ステータス』で見ても目視で確認しても魔力体力共にかなり余裕があるが、ここからはより消耗も激しくなるはずだからきっちり整えてから行きたい。
「みんな飲み終わったよね?じゃあ瓶回収するよ」
「助かる……けど水を一杯貰えないか?」
「ごめん俺も……」
「私も……」
「わかった……はい、どうぞ」
やっぱりみんな魔術薬の味苦手なんだな……私は嫌いじゃないんだけどな……
口直しも終わったのを確認し、改めて瓶を回収する。
「よし、それじゃみんな行けるね?」
「ああ」
「大丈夫だ」
「行けるよ〜!」
「じゃあ、行こうか」
全員に確認を取り、警戒を強めながら階段を下る。
一昨日はここで奇襲食らったからな。同じ轍は踏まないようにしないと。
「っと、早速だね。進行方向に居る」
「何匹いる?」
「黒死狼が二匹、透光蜥蜴、甲冑虫が一匹」
「じゃあトカゲと虫は俺がやる。初手拘束だけかけてくれ」
「了解。それじゃ行くよ!」
私の号令に合わせて走り出す。
そして接敵と同時に──
「《氷結拘束》!」
氷の茨で四体の魔物全員を縛り付ける。
もちろんこんなレベルの術式じゃ相当魔力を込めない限り直ぐに破壊されるだろう。
けど、そのほんのちょっとの時間が重要なのだ。
その少しの時間があればベインは刀の間合いに詰められるし、私は追加で魔術を使える。
「《氷結拘束》!」
もう一度拘束の術式を唱える。
この時間を使ってさらに距離を詰め、連携のためのコミュニケーションをとる。
「私とマルクで左のを抑える!だからヒナは今縛ってる右のをお願い!」
「了解!」
「了解!」
このやり取りを終えたタイミングで二匹にかかった拘束が解ける。
しかしその時点で距離は無いに近しいレベルで安全に近づけたし、ヒナは攻撃の姿勢に入っている。
「《緋炎剣》!」
ヒナの炎剣が迸り、黒い狼の胴が両断される。
こっちも負けてられないな。
「レイ!援護するからぶちかませ!」
「ありがとう!」
「行くぞ!《大地隆起》!」
茨の拘束から抜け出し、立ち上がろうとしていたタイミングで地面から飛び出した岩が狼の腹を穿ち、体を浮かす。
昨日比較的柔らかいと分かってた喉元を狙いやすいように浮かしてくれたのか。ありがたい限りだ。
「魔力放出!はぁぁあっ!」
身を捻るようにして喉元めがけ渾身の突きを放つ。
その魔力によってブーストされた突きは脳天を貫き、黒死狼の命を絶つ。
「ふぅ……ちゃんと機能したね。やっぱり拘束は意外と有効かも」
「だな。破られるにしてもその一瞬がありがたい」
「だね〜私も攻撃しやすいもん」
拘束術式の有用性を改めて確認しながら魔石を拾い、ベインと合流する。
これからは相手を妨害する方針で魔術を掘り下げてみてもいいかもな。
「そっちも終わったか」
「うん。そっちも無事に勝てたみたいだね」
「ああ。魔石もちゃんと回収してきた、まとめて入れといてくれ」
「わかった」
ベインから受け取った魔石を袋に入れ、拡張収納にしまう。
「よし、ちゃんと勝てることもわかったしもっと進んでみようか」
「わかった」
「了解」
「了解!」
息を整え、五層へ向かって歩き出す。
幸運で手に入れた肩書でも、それを与えてくれた人に恥じない活躍をしないとな。