5-43 作戦会議
「びっくりしたね〜……」
「ああ。カイさんから話しかけてきたと思ったらこれだからな……」
「ああ……」
「私なんて部屋で寝てたところにだったからね……ほんとびっくりしたよ……」
酒場で料理をつつきながら話をする。
そしてその内容はやっぱり昇格の話だった。
まあこの場の全員に寝耳に水な話だったし当選と言えば当然だ。
「はぁ〜……にしても金階級かぁ……」
「なんか思ってたより早く昇格したな」
「ああ。というか俺なんて急に二つも上がったからな」
「まさか全員まとめて金階級になるなんてね。カイさんがなんかやったっぽいけど……私たちが最初から四人で組んでたっていうふうに話したのかな?」
「多分そうだろうな」
「まあこれからさらに下に行くときに一人だけ取り残されるなんてことにならなくてよかったじゃん」
「ま、それはそうだね。降って湧いた幸運みたいなものだけど昇格したのは変わらないし、金階級にふさわしい活躍を目指して頑張ろう」
「だな。──で、その活躍に関してなんだが、四層の攻略で苦戦し始めたが……」
「ん?そうか?俺からすれば血の一滴も流れてないしさほど苦戦してるようには見えないが……」
「ベイン、怪我っていうのはね、どんな小さな傷でも負えば最善最高の動きはできなくなるんだよ。それで、無傷の状態で突破するのにごたついてる時点で苦戦してるんだよ」
「......腕を失ったことがあるやつが言うと説得力が違うな」
「あの時は治ってもしばらくほんと苦労したからね......っと、話を戻して、苦戦してる理由なんだけど、まず四層の黒死狼に致命傷を通せるのが私とヒナしかいないから、問題はいかにして私たちの攻撃を当てるか、だと思うんだよ」
「まあそれは同感だ。というか今の作戦の根底の話だからな」
「うん。で、まずヒナはもう問答無用で焼き切ってるし避けられてもないから一回置いといて、問題なのが私の攻撃は多分真正面から撃っても弾かれるか避けられるんだよ」
「まあ魔術での遠距離攻撃はヒナに軍配が上がるし、体格の問題もあって近接戦は不向きだ。客観的に見て真正面から戦うのはやめたほうがいいだろうな」
「ベイン?私前にも身長のことは気にしてるって言わなかったっけ?」
「す、すまん……」
はぁ……本当にこの低身長が嫌になる。
特に近接戦闘だと体格や筋力が物を言う場面が多い。
せめてあと五センチ身長があればなぁ……
「はぁ……まあ非常に癪だけど小さめの体格なのは間違いないし魔術での身体強化を含めてもベインには劣るよ。体格の事もあって対人戦ならまだしも魔物相手の近接戦は不向きなのは間違いない。けど、私が今一番威力を出せる攻撃は刀を使った近接攻撃だと思う。で、その不向きな近接攻撃を当てる方法なんだけど……」
「俺達前衛が隙を作るか……」
「レイチェルちゃん自身が魔術で隙を作るか、じゃない?」
「まあそうなるよね。となると黒死狼とかの大物相手だと私がとどめを刺せるようにまた作戦を練り直さなきゃなんだよね」
「まあそれは仕方ない。というか俺の力不足が原因でレイチェルが対応しなきゃいけなくなってしまった。不甲斐ない限りだ」
「いや、私の攻撃が通るのは武器のおかげなところもあるし仕方ないよ。魔力放出の術式勉強してくるから今度マルクの剣にも刻んでみよう」
「すまん、助かる」
「本当は私みたいな素人が刻むより正規品を買うか依頼するのが一番いいんだけど……」
「まだ装備のツケも返せてないしな……」
「だよね……ってか私のにも刻んでほしい!」
「勉強してきたらその時一緒に刻んであげるよ」
「ありがとう〜」
まあちゃんと習得できるかどうかは分からないけど......学院のツテを頼って色々資料送って貰うか。
「じゃあとりあえず対策として作戦を見直す、いつになるかは分からないがレイチェルが武器を加工するって事でいいか?」
「そうだね。当面はそれで対処することになると思う。お金が溜まったら装備の買い替えも考えられるけど......」
「今日の成果を見る限りあと三、四回は探索しに行かないとツケも返せないだろうな」
「だよね。じゃ、しばらくはあるもので頑張りますか」
「だな。──じゃ、大枠が決まったところで会計するか」
「そうだね。もう疲れたし眠い〜」
「俺もだ。作戦は明日決めよう」
「わかった」
代金を割り勘で払い、酒場を後にする。
「じゃあまた明日ね。おやすみ」
「おやすみ」
「おやすみ」
「おやすみ〜」
寝る前の挨拶を言い合い、各々自分の部屋に戻っていく。
今日は色々あってまだ整理がつかない。
けどありがたいことに金階級に昇格させてもらったんだ。それに見合う成果を上げたい。
明日も頑張ろう。