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5-42 棚からぼた餅

「はぁ〜……疲れた」


 疲れが蓄積し、動きが何もかも鈍くなった体を動かし、部屋に入ろうとしたその瞬間、私に向かって声がかけられる。


「ちょうどよかった。レイチェルちょっといいか?」


 呼び止められた。そしてその声の主は──


「カイさん?どうしたんですか?」

「ギルドの昇格審議会からお呼ばれされたぞ」

「え──?」


 完全に予想外の話だった。


 昇格するには手柄を立てる必要があると聞いていたが……まだ何もしてない。

 一体何が……


「何もしてないんですけど……」

「昇格の理由になった手柄のことだろ?俺が推薦しといた」

「え?」

「昨日の四層のフロアボス討伐の時の話だ。予想外の出来事によって俺達が取り逃がした透光蜥蜴(インビジブルリザード)三十四匹をベイン含め四人で全て処理してくれたってな。あ、ちなみにベインのことは一人で探索してたところを助力してくれたって設定にしてあるから。そこは上手く合わせてくれ」

「は、はぁ……」


 正直突然のことすぎてついていけてない。

 昨日のことは自分の身を守るためにやったことで別に協力しようとしたわけじゃないし帰りはお荷物になってしまった。褒められたことじゃないんだが……


「まあ単純に実力が評価されたってのもある。聞いたところ迷宮に潜り始めて一週間経たずでもう四層まで潜ってるんだろ?異例も異例、そんな速さで降りていくのは天の才、俺だってできなかったことだ」

「それは私たちは学院で戦い方を十年学んだっていう前提条件もありますし……」

「まあまあ、俺はお前たちのこと気に入ってるし贔屓にもしてる。早く最深層の探索に協力してほしいとも思ってる。だから、まあ、大人しく受け取っとけ」

「わ、わかりました……」


 これは要するに階級の高いカイさんの推薦によって昇格するってことじゃないのか?

 カイさんは実力も認められたと言ってくれたが……


 正直納得がいかない。

 いや昇格することでできることも増えるしありがたいことしかないんだけども……釈然としない。

 降って湧いたピンチを無理矢理解決したのをカイさんの推薦によって脚色されて手柄と認められたって経緯もあってほんとに釈然としない。


「まあほら、五層以降は金階級以上じゃないと行けないから丁度いい機会とでも思って手続きしてこい」

「わ、わかりました……。あ、マルク達は呼びましたか?」

「ああ。ヒナは部屋にいたところを、ベインとマルクは丁度二人揃っていたからまとめて説明した。多分もう受け付けにいると思う。行ってやれ」

「わかりました……まだ色々整理がつきませんけどとりあえずありがとうございます」

「気にすんな。無事昇格できるといいな」

「はい。それじゃ行ってきます」

「おう!」


 急なことで何が何だかよく分からないし釈然としないがせっかくのチャンスだ。貰えるものは貰っとこう。
















「あ、きたきた」

「ごめんお待たせ」

「事情はカイさんから聞いたか?」

「うん。大体は聞いてるから大丈夫」


 予想通り私以外は先に全員揃ってた。


「皆様おそろいでしょうか?」

「はい。全員揃いました」

「ではご案内いたします」


 私たちが全員揃ったのを確認してから受け付けのカウンターの、さらに奥に通される。

 そして少し歩くといかにもな感じの扉の前で止まり、その中に案内される。


「銀階級冒険者レイチェル、マルク、ヒナ、銅階級冒険者ベインの四名をお連れしました」

「ご苦労。では下がりなさい」

「承知しました」


 軽く報告を済ませ、受け付けのお姉さんは扉の外へ戻っていってしまった。


「当ギルドの人事務長をさせていただいてるザインだ。今日はよろしく頼む。──では、早速だが本題に入ろう。カイ君から話は聞いてるね?」

「はい。第四層のフロアボス討伐に貢献したことが評価され昇格の機会を頂いたとお聞きしました」

「その通りだ。聞くとことによるとギルド入会からたった五日でもう四層を探索してるとか。目覚ましい活躍ですね」

「ありがとうございます」

「光栄です」

「恐縮です」

「あ、ありがとうございます」

「そして、今回のフロアボス、大鰐透光蜥蜴インビジブルリザードアリゲーター討伐に大きく貢献したことも考慮し、当ギルドはあなたたち四人を金階級へ昇級させることにしました。問題なければこちらの書類に著名を」

「わかりました」


 まずマルクが一歩前に踏み出し、著明する。

 そしてそれに続いて私、ベイン、ヒナの順で書類に名前を綴り、ザインさんに差し出す。


「うむ。問題なさそうだ。では、その徽章は悪用防止のためこちらで回収させてもらおう」

「わかりました」


 胸元の銀色のバッチを外し、マルクに倣って机の上にの置く。


「よし、では今日からはこちらの徽章をつけるといい」


 銀の徽章と引き換えに、金に輝くバッチを渡される。


「その輝きに恥じない活躍を期待するよ」

「ご期待に添えるよう精進いたします」

「うむ。では、下がりなさい」

「分かりました──失礼しました」

「失礼しました」

「失礼しました」

「し、失礼しました」


 全員部屋から出て、扉を閉める。


「はぁ~……」


 肺のそこから空気を吐き出し、緊張を解す。



 なんとか無事に昇格できたな……

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