5-36 大浴場
「え〜っと……あ、あった」
あれからギルドから歩いて大浴場まで移動してきた。
そしてそのまま扉を開けて中に入る。
「いらっしゃいませ。四名様ですか?」
「はい」
「ではお一人様銀15になります」
「わかりました」
言われた通り財布からお金を取り出し手渡す。
前世の金額に変換すると大体1500円、かなり割高な気がするがこの世界の水道工事がどれだけお金かかるか想像もつかないしそう考えると良心的な金額設定なのかもしれない。
「左が女湯、右が男湯になります。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
入場券を受け取り、受け付けから離れる。
「じゃあ上がったらここで待ってるからね」
「わかった。じゃあまた後で」
男性陣と一旦別れ、女湯に向かう。
ああやばい、心臓が……なんでこんなこと言っちゃんだんだろ……
ただここまで来た以上引き返せないし乗り切るしかない。
「──『血弱化/視力弱化』」
この五年で見つけた血属性魔術の応用を発動させる。
効果は強化の逆、シンプルな弱体化。
そして弱体化する対象は自分の視力。
本来は自分の血を摂取、付着させた相手を対象に発動するのだが......まあ役に立つから良しとしよう。
「なんか言った?」
「いや、何にもないよ」
何事もないかのように振る舞い誤魔化し前に進む。
分かってはいたし狙い通りだがやっぱり全然見えない。
前世も目は良くなかったし、視力検査の結果は0.3きってた。
けど今はそれ以上に見えない。実験は控えていたけどここまで強力なものになってたとは......
「着替えよ!」
「うん、ちょっと待って」
ロッカーに荷物をしまい、服を脱ぎ、バスタオルを巻く。
正直見られるのは気にしないが一応巻いておいた方がいいだろう。
「じゃ行こ!」
「はいはい。転ばないようにね」
「へーきへーき!行こ!」
今にも走り出しそうなヒナの後ろをついて行く。
そして何の遠慮もなく風呂場の扉をヒナが開けてしまった。
思わず目を瞑ったが、立ち止まってると変に心配かけそうなので覚悟を決めて目を開ける。
......意外となんも見えないな。
なんか思ってたより湯気が多いし弱体化が聞いてるおかげでいい感じにぼかされて見える。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない。それより体洗いに行こっか」
体を洗うためにシャワーめがけて歩き出す。
相変わらず罪悪感と心臓やばいし、一周まわってなんか冷静になってきたけど何とかなりそうだ。
「ふぅ......」
「いいお湯だったね〜」
「うん。さっぱりした。たまにはお風呂もいいね」
「だね〜。また来ようよ」
「い、いいけど......」
出来れば今度は一人でゆっくり入りたいものだ。贅沢を言うなら個室がいい。
「それより髪乾かせた?」
「うん。多分ちゃんと乾いたはず」
「う〜ん......あ、ここまだ濡れてるよ。《温風》──よし。まだまだ制御が甘いね」
「練習はしてるんだけどな〜」
「まあヒナの場合は下手するといろいろ吹き飛ばしかねないからちょっとずつね。火力も風力もそれ以上出さないようにして練習していこ?」
「は〜い」
「じゃ、二人と合流しよっか」
荷物を持って外へ出る。
ようやく心臓が静かになってきた。
「あ、レイ」
「そっちの方が早かったね。ところで何飲んでるの?」
「牛の乳らしい。そこの売店で売ってた。色々あったし興味があるなら見てくるといい」
私の問にベインが代わりに答える。
やっぱりその瓶の中身は牛乳だったか。
この世界でも風呂上がりにぎゅうにゅうという文化は変わってないのか。
せっかくだし一本買ってこようかな。
「ヒナ、買いに行こ」
「いいよ〜。私も気になるし」
湯上りの程よく温まった体温の体を動かし、売店で牛乳を二本購入する。
マルクたちと合流し、近くの椅子に座ってから一口飲む。
「おいしい......」
温まった体にひんやりとした牛乳が流れ込んでいくのが気持ちいい。
そしてそのまま二口目、三口目とどんどん飲んでしまい、あっという間に完飲してしまった。
今まで保存技術の問題なのかあまり牛乳を見かけなかったので久しぶりに飲む牛乳が美味しく感じるな。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした〜」
「俺瓶返してくる。まとめて返すから瓶をくれ」
「ありがとう」
「すまん助かる」
「ありがと〜」
三本の瓶をマルクに渡し、まとめて返してきてもらう。
「終わったぞ。どうする?」
「うーん、なにもないなら帰ろうか」
「だな」
「じゃあ帰ろっか。ヒナ、行くよ」
「は〜い」
四人で大浴場から出て、ギルドに向かって歩き出す。
新しい仲間を交えた息抜きが終わった。
私に女湯の描写なんて無理だった......
次からはもうちょっと考えて書いていかなきゃ......