5-35 お祈り
「ごちそうさまでした」
手を合わせ、声を揃えて唱える。
そして席を立ち、会計をする。
店に入る前に言ってた通りカイさんが奢ってくれるらしい。
「すいません、ありがとうございます」
「いいってことよ。まあいつか俺が引退する時祝ってくれたらそれでいいさ」
「はい、その時は必ず」
正直この人が引退するのは想像できない。けどいつかその時が来たら必ずお祝いしないとな。
「じゃ、俺は寄ってくところあるから。じゃあな」
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした」
「ありがとうございました」
「さようなら〜!」
店を出て、カイさんと別れる。
「……なあ、あの方向迷宮じゃないか?」
「あ〜確かに……何か忘れ物でもしたのかな」
「かもな。それよりこれからどうする?特に予定はないが……」
「あ?まだいかなきゃいけない所あるだろ?」
「え……なんかあったっけ?」
「マジか……教会だよ、教会。魔物を殺しまくったんだ、お祈りに行かないと体に障るぞ」
しまった、忘れてた。
カイさんとの事前案内にも無かったから忘れてた。というか当たり前過ぎてカットされたのかもしれない。
「そういえば……」
「忘れてたね」
「ああ……」
「おいおい……とりあえず先に教会に行くぞ」
言われてみればそうだ。
確か『ステータス』とレベルの仕組みは身の回りの死んだ生き物の魂が自分の魂に付着して身体に悪影響を起こすから付着した魂を吸収することだったはず。
その理論なら確かに魔物の魂が大量に付着してるのも道理だ。
通りでspの量が多いはずだ。というか十五年生きてて悪影響が起きたことがないから本当に悪影響が起きるのか、どれくらいのspを溜め込んだらダメなのか、ってラインが分からないからいつもお祈り行くの忘れるんだよな。
とりあえず今日はベインが教えてくれたし行っておくか。
歩き出すベインの後ろをついていき、五分ほどで到着した。
やっぱり魔物の魂が付着しやすい冒険者のためか迷宮の近くにあった。ありがたい話だ。
音を立てないよう静かに扉を開け、祝詞が唱えられてる最中の教会に入り、近くのベンチに座ってお祈りをする。
伸ばすのは……体力?それとも筋力?魔力もいいかもしれない……
よし、とりあえずここから先《空間把握・二重展開》とかで魔力の消費が増えそうだし魔力にしとこう。
魔力を伸ばしたいと願いながら目を瞑り、顔の前で手を組む。
そして祝詞を聞きながら願うこと十分ほどで全spを『ステータス』に変換し終える。
「……よし、そろそろ確認しに行こう」
「……わかった」
「……了解」
「……わかった」
お祈りの邪魔をしないようヒソヒソ声で話し、『ステータス』の術式が刻まれた水晶の場所まで移動する。
『ステータス』が使えるのは私だけだから一回確認しに行く必要があるのだ。
これも学院にいたときに小型化したのを完成させられたらよかったんだけどな……
よし、全員確認し終えたな。出るか。
小声で促し、また静かに扉を開けて教会から出る。
「よし、これでほんとにやることなくなったな」
「だな……って魔石を換金しないと」
「あ、そういえば。持ってるのも危険だしギルドに持っていこうか」
「わかった。じゃあ行くか」
また歩き出し、中央区のギルド本部に向かって足を進める。
「結構いい収入になったね」
「ああ。昨日のを見る限りそんな高くならないと思ってたが意外と高かったな」
「多分沢山倒したからだよ。昨日十何個とかだったのに今日四十九個だよ?それに四層の魔物だったし。いや〜節約生活になるかと思ってたけど意外と余裕?」
「ヒナ、今日みたいなことにはできるだけならないほうがいいんだし今日のを基準にしちゃダメだよ」
「は〜い」
もらったお金を三等分し、財布にしまう。
そしてお金に関わることなので別で換金してたベインと合流する。
「終わったぞ」
「こっちも終わったところだ。これでほんとにやることなくなったがこれからどうする?」
「う〜ん……私としては汗かいてベトベトだし解散でもいいかな」
「あ、そういえば近くに大浴場あるらしいよ」
「お風呂あるの!?みんなで行こうよ!」
「俺は構わない」
「俺も別に構わない」
「じゃあお風呂で決定!」
「わかった。じゃあ俺は荷物取りに一回戻る。またここに集合でいいか?」
「いいよ」
「構わない。それじゃ俺も一回部屋に戻る」
「レイチェルちゃん、行こ!」
「う、うん」
なんかハイテンションだな……
「レイチェルちゃんと一緒にお風呂か〜」
「あ」
しまった墓穴掘った!
そういえばそうだ、大浴場なんだから同時に入るに決まってる。
この世界に来てこの体になってから性別関係に疎くなったな……
言い出しっぺだし今さら撤回もできないし……
元男としては罪悪感が強い……いい年にもなって女湯とか……
正直見られるのはどうでもいいが見るのは罪悪感が強い。
何とかするしかないか……