5-33 旧友と先達
「一ヶ月ぶりくらいかな?久しぶり、ベイン」
五年前魔闘大会で一騎打ちの末辛勝を勝ち取った相手、そしてつい最近まで実験の手伝いをしてくれてた学院の友人の顔がそこにあった。
「つい最近まで実験台にしてたくせに忘れるなよ」
「いや、顔を隠してたからさ……それよりなんでこんな所に?」
「それは──」
「あれ?レイチェルじゃないか」
「カイさん?」
ここにきてもう一人知り合いが増えた。
……走馬灯でも観てるんじゃないだろうな?
「こんなところで会うなんて奇遇ですね……どうしたんですか?」
「いや、ギルドの依頼でこの近くの姿光蜥蜴の親玉のフロアボス、《大鰐透光蜥蜴》の討伐に来ててな」
「それに取り巻きの相手で俺がついてきたんだ」
フロアボス……名前は聞いたことあるがそうそう出くわさないと思ってた……思いの外近くにいるもんなんだな。
「ってフロアボス討伐に参加してるってことはベインはもう金階級?」
「いや、まだ銅階級だ。一ヶ月前くらいに『アンブロシア』に入会して、それからカイさんに色々教えてもらってる」
「まあ近接戦闘ならそれなりに腕が立つからな。それに本人の要望もあって色々連れ回してる。ただフロアボス討伐に関しては俺が無理矢理通しただけだからあんまり言いふらさないでくれよ?」
「はい、それはもちろん」
なんか、色々起きすぎてキャパオーバーしそう……
まずベインが同じギルドってことが驚きだ。冒険者を目指してるってのは色々付き合っていくうちに聞いたがまさかギルドが同じとは……
いやもちろん大手のギルドを目指すのは当たり前の話なんだがここの入会審査はかなり厳しいらしい。
推薦とか戦魔術師の資格を持ってる私たちはかなり緩かったが魔闘大会での戦いで私が勝って引き抜きは来なかっただろうし、コースも普通の魔術師を目指すコースだったから資格による補正もない。正直入れると思ってなかった。
まあその分錫階級からのスタートだったっぽいしギリギリではあったのかもしれない。
「ていうかそっちは大丈夫だったのか?大量の透光蜥蜴が向かっていってたが……」
「それはなんとかなりました。何か心当たりありませんか?」
「ん〜……討伐の途中で結構巨大な魔力を感じたな……親玉の討伐中だったし親玉守るためにその魔力の方に行った、とかじゃないか?」
「あー……」
どうしよう、心当たりしかない。
絶対一番最初に使ったヒナの《灼竜砲》が原因だ。
自分たちのボスの危機って気が立つ状況で巨大な魔力反応、それで取り巻きが集まってきた、って感じかな。
フロアボスは予想外だったがさすがに迂闊が過ぎたか。……私のミスだな。
「はぁ……その魔力源私たちです」
「やっぱりか。ま、無事ならよかった。とりあえずそろそろ戻るところだし一回俺の仲間と合流しよう。地上まで一緒に移動しようぜ」
「分かりました」
歩き出すカイさんの後ろをついて歩き、迎撃に出てた二人と合流し、カイさんのパーティーに合流する。
「遅いよ!何やってんのさ!」
「すまんなナズナ、遅くなった」
「まあまあ、目的は達成しましたし多少ゆっくりしても大丈夫ですよ」
「ありがとう、アーノルド」
「俺としては疲れたし早めに帰りたいんだけどな」
「すまんな、ベン。迷惑かけた」
「気にしてないさ。それよりそいつらは?」
「あ、そういやまだ紹介してなかったな。俺が引き抜きの声を掛けて、俺が色々教えてる後輩のレイチェル、マルク、ヒナの三人だ」
「変なこと教えてるんじゃないだろうね?」
「将来有望ですね〜」
「早く強くなって最深層の探索を手伝ってくれ」
歓迎されてるのか、そうでないのか良く分からない返事が返ってくる。
というか、それよりも──
「皆さんだけでフロアボスを討伐したんですか……?」
「ん?そうだな」
「フロアボスは複数の班に分けて連携を取りながら討伐するって聞いたんですが……」
「まあフロアボスの種類にもよりますけど今回のは私たちだけ、五人だけでも余裕でしたね」
「まあ人数が少ないほうが分け前多くなるし減らさん理由がないわな」
「ま、楽に勝てる相手ならこうやって報酬独り占めするために少人数で戦うのもよくある話よ」
「言っとくが俺は結局何もできなかったぞ」
学院でも本でもフロアボスは複数パーティーで戦うものと習った。そしてそれだけ危険というのも、同時に習った。
そんな敵を相手にベイン含めたった五人、本人曰くほとんど役に立てなかったらしいのでほぼ四人、それだけでどれだけ強いのか、この人たちからしたら私たちがまだどれだけ低いレベルにいるのか、想像もつかない。
「とりあえず今回は俺達が迷惑かけたんだ。無事に地上まで連れ帰るぞ」
カイさんの号令に促されるまま歩き出す。
やっぱりまだ私たちは一緒に戦う仲間じゃなくて、守るべき対象なんだな。
仕方ない。いつか絶対強くなってこの人たちを超えればいいだけだ。
とりあえず今はこの人たちについていこう。
黒鉄の冒険者という最上位レベルの人たちと共に地上に向かって歩き出す。