5-26 迷宮探索、第二階層
「マルク!左からもう二匹増援!甲冑虫と黒迷犬が一匹づつ!増援は私でやるから二人でそっちお願い!」
「わかった!」
「了解!」
二手に別れ、それぞれ魔物を相手取る。
「《氷結拘束》!《冬の棘》!」
黒い狼のような犬と甲冑を纏った虫を地面に縛り付け、急所を狙って氷の棘を刺す。
しかし、黒迷犬には決め手にならず、まだ息がある。
「はあっ!」
腰に杖を戻し、刀身に刻まれた術式を起動しながら両手で刀を振るう。
魔力を放出し、爆発的なスピードと破壊力を得た刀身が、魔物の身体が解けていくような錯覚を覚えるほどの切れ味で黒迷犬の首を断つ。
「よし……」
「こっちも終わった」
「終わったよ〜。はい、魔石」
「ありがとう。こんな小さい魔石でも少しは足しになるかもしれないから集めとかないとね」
「だな。学院で見たものよりは小さいし込められた魔力の量も全然違うがそれでもかなりの魔力が込められてる。放置するわけにもいかないしちゃんと持って帰ってギルドに渡そう」
「そうだね……あ、こっちのも魔石になった」
話してるうちに私が倒した魔物の身体が光の粒に変換され、魔石だけが残る。
「これってさ、やっぱり……」
「うん、魔力だと思う」
「だよね〜知ってはいたけどやっぱり直接見ると不思議だよね。どういう仕組なんだろ」
「う〜ん……死体は消えちゃったし魔石にはなにも刻まれてないから術式の解読もできないしね……やっぱり魔物が生まれるところを直接確認でもしない限りわかんないかもね」
見た感じ魔力が霧散してるみたいな感じだけど……やっぱり迷宮特有の何かがあるのかな……
というか逆説的に魔物の身体は迷宮の魔力で構築されてるってことだし刀の切れ味がいいのってそういう理由なのかな。
魔力を流し、放出する術式を刻んだ剣は魔力放出によって威力、切れ味、スピードがブーストされるのはもちろん、魔術に対して絶大な影響力を得る。
魔術の火や岩を切り裂いたり、構築した魔法陣に振るえば魔力が斬られて魔術を発動できなくなったりもする。
魔物の身体が魔力でできてるなら効果があってもおかしくないだろう。
魔力放出の術式は魔術師同士の戦い、特に近接戦闘という手段をとれる戦魔術師にとってはかなり有用な手段として研究されてたが……まさか魔物にも効果があるとは思わなかった。
まあ、補助くらいの考えで使ってたし思わぬところで役立ってラッキーだったな。
「なあ、そろそろ下に降りてみないか?」
「う〜ん……そうだね。まだ結構余裕ありそうだし降りてみる?」
「さんせ〜い!二層は一層とそこまで変わらないらしいし降りてみようよ!」
「そうだね……うん、二層に降りる階段も近いし降りてみよう。それでまた少しずつ様子見て下に降りていこう」
「わかった」
「りょうか〜い!」
第二層へ降りる階段を目指して歩き出す。
「……なあ」
「うん。わかってる」
「聞いてた通り一層と二層全然変わらないね……」
「魔物がちょっと硬くなったけど正直誤差だしね。まあ落ちる魔石の質は良くなってるし美味しいけどね」
「そうだけどさ……なんか、つまんない」
「まあ最下層目指すならさっさと下に降りたほうがいいよな。ここに籠もっても成長しないし」
「う〜ん……じゃあ降りてみる?ただ手続きのとき申し込んだ滞在予定時間が十二時までだから様子見だけになりそうだけどいい?」
「まあいいんじゃないか?」
「私もそう思う。二層にぐだぐだ居残るくらいならどんどん下に降りてもいいんしゃないかな」
「いや、偵察、様子見の高低は絶対に飛ばさないよ。それで死にでもしたら洒落にならない。だから今回は三層の様子見だけして引き返そう」
「わかった」
「わかった……」
幸い二層へ降りてきた階段と三層へ降りる階段はそこまで離れてない。
それに《空間把握》で魔物が居ないのも視えてるので足を止めることなく階段に向かって進める。
この二つのおかげで五分も経たずに三層へ降りる階段に辿り着けた。
「降りるよ。準備はいい?」
「大丈夫だ」
「いつでもいけるよ」
「よし……じゃあ、行こう」
臨戦態勢をとり、最大限警戒しながら、石段を下る。