5-25 迷宮探索、第一階層
迷宮の入口を踏み越え、無機質な石造りの遺跡に入っていく。
「──《空間把握》」
「──《空間把握》」
迷宮に入ってすぐに打ち合わせ通りマルクと二人で《空間把握》を展開する。
「ちょっと視えづらいけど大丈夫そうだね」
「だな。こっちも大丈夫そうだ」
「よし……じゃあ、ちょっと失礼──《暗視》」
「ちゃんと見えてる?」
「ああ。ちゃんと見えてる」
「私も見えてるよ」
迷宮内は外とは空気中に含まれる魔力の密度が違うから魔術が使いづらいって聞いてたけど問題なさそうだな。
これくらいなら問題にならないな。
「じゃあ確認も終わったし進んでみようか」
「わかった」
「了解!」
魔術が普段通り使えることを確認し終え、地図と照らし合わせながら歩き出す。
正直《空間把握》が使える私たちからすれば地図はなくてもなんとかなるが……そういう油断が命取りになりかねないからな。こまめに確認しとかないと。
「う〜ん……やっぱり直接見て思ったけどさ、どう見ても人工物だよね」
「ああ。学院でいろんな論文を読んたがやっぱり人工物って説が正しい気がしてきた」
「私も。床も壁もどう見ても自然にできたものじゃないもん」
ところどころひび割れてはいるがこの石造りのタイルも壁もどう見ても人工物だ。
さらに場所によっては罠も仕掛けられてるらしいし明らかに人の手が入ってるのは間違いない。
けど、この巨大な迷宮に満ちた魔力、湧き出る魔物、迷宮限定で起こる死んだ魔物の魔石化など現代の魔術の知識じゃどうしても証明できないことが多い。
とくに魔力の出どころが説明できないから人工物説は有力ではあるが否定されてる。
まあだからこそこうやって冒険者が探索し、謎を解明するため迷宮に潜ってる人もいるわけで。
……まあ大半の人はおとぎ話の『なんでも願いが叶う』ってロマンを求めて来てるか、ワンチャン一攫千金狙うならず者だけど。
まあ大半の人は謎の解明とか縁の遠い話だし──
「──マルク」
「ああ、わかってる。昆虫型の魔物が二匹、正面から」
「多分これは……甲冑虫かな?確か外骨格が固いから装甲の継ぎ目を狙えばいいんだよね?」
「そのはずだ!来るぞ!」
「わかった!作戦通りに行くよ!」
「了解!」
「了解!」
曲がり角から飛び出してきた魔物二匹と接敵する前に前に出て剣を構える。
そして、接敵と同時に魔術と剣を振るう。
「《岩石砲》!はぁっ!」
飛びかかろうとする二匹の甲冑虫を剣と魔術でたたき落とす。
しっかり羽や装甲の継ぎ目など脆い部分を狙って当てている。
事前に得た知識もそうだがマルクの技術がいかに洗練されてるかが分かるな。
「頼む!」
「了解!《冬の棘》!」
「圧縮して......よしっ!《緋炎剣》!」
私の細氷の針が、ヒナの圧縮された白熱の刃が二匹の魔物にとどめを刺す。
「よしっ!上手くいったね!」
「うん、作戦通りにいったね」
「上手くいったが......いつ見ても凄いな。それ」
「学院でアベルに教えてもらってから練習してたんだよね〜。意外と上手かったでしょ?」
「ああ。制御が上手くなってきてる。ただ......」
「うん。過剰火力だね。真っ二つだったもん。昆虫種は熱に弱いらしいしもうちょっと抑え気味でも良かったんじゃないかな?」
「う〜ん......わかった、次からほかの魔術も試してみる」
「だな。もっと硬そうで強そうなやつ出てきたら頼む」
「わかった。その時は任せて!」
うん、一回戦ってわかったけどこのレベルならまだかなり余裕あるな。
もう少しこの階層で試してみて余裕ありそうなら下の階に降りてもいいかもしれない。
ただ迷宮の魔物は下に降りれば降りるほど強くなる。ちゃんと見極めないと万が一に繋がりかねない。
慎重に見極めなきゃな。
「しばらくこの階で様子見てみよう。それで大丈夫そうなら下に降りてみようか」
「わかった。俺もそれがいいと思う」
「賛成!」
「じゃあもう少し進んでみよう」
腕試しも兼ねて、迷宮第一階層を歩き出す。