5-24 スタートライン
朝、普段と変わらない時間に目が覚める。
迷宮に初めて行く日だというのに体調はいつも通り、不安や緊張こそあるものの体調的には万全と言っていい状態だった。
この世界に来てから続けてるルーティンのおかげか、『ステータス』による身体強化のおかげか、どちらの、はたまた両方の影響かは分からないが大事な日に隊長に振り回されることがないというのは喜ばしい話だ。
っと、頭を働かせるのもいいがそろそろ動くか。初めて迷宮に行く日に遅刻とかしたくないからな。
ベッドから降り、寝巻きから動きやすい服に着替える。
特に戦い、動き回る予定なので見た目なんて二の次、いや全く気にしてないわけじゃないが機能性重視、邪魔にならない半袖短パンを選び、着替える。
魔獣の攻撃や毒素は布程度じゃ防げないらしいので着込むだけ無駄らしい。
まあどうせ胸当てとかサポーターとか装備つけるし肌の露出はそんなに無いな。
洗面所で顔を洗い、学院に居た時から愛用してる手鏡で見ながら長い銀髪を後頭部で括り、ポニーテールにする。
「よし……」
いい感じじゃないか?お洒落かと聞かれれば微妙だが冒険者として思い描いた姿にはかなり近い。
あとは装備をつけてローブでも羽織ればかなり様になるんじゃなかろうか。
「──っと遅れる遅れる!」
時計を見るともうすぐ合流時間だった。
慌てて拡張収納を持ち、ローブを羽織りながら部屋から出る。
目指すのは酒場、朝食を食べてから鍛冶場に装備を受け取りに行く予定になってるので、とりあえず酒場で二人と合流したい。
「あ、来た」
「おはよう!」
「おはよう。また私が最後だったね」
「いや、まだ集合時間の五分前だ。俺たちが早すぎたな。とりあえず何注文するか決めよう」
そう言いメニューを開いて見せてくれる。
「じゃあこれで」
「わかった。すいませ〜ん!」
マルクが注文を済ませ、メニューを片付ける。
私が決めた直後に注文したってことは私が来るまでに注文決めてたってことだしやっぱり私が来るの遅かったな。
「お待たせしました」
まだ早朝、さらに装備の受け取りとかを考慮して早めに来たこともあってか人が少なく、五分も経たないうちに料理が運ばれてくる。
「とりあえず食べるか」
「そうだね。いただきます」
「いただきます!」
運ばれてきた料理に手を付け始める。
しっかり食べてエネルギー取っとかないとな。
朝食を食べ終え鍛冶場に装備を受け取りに来た。
「失礼します!」
ひと声かけてから分厚い鉄扉を開ける。
鉄扉という仕切りが空いたことによって中に籠もっていた熱が溢れ出る。
「おはようごじいます」
「おう。受け取りに来たか」
「はい。できてますか?」
「できてるぞ。ほれ」
職人の手によって作られた装備が人数分並べられる。
「着てみろ」
「わかりました」
促されるまま装備を手に取り、装着する。
「ぴったり……」
金属製なのに体にぴったりの大きさで、全く邪魔にならない。
……凄いな。
「ならよかった。ほれ、二人も着てみろ」
「わかりました」
「わかりました」
続いて二人も身につけ、問題なく装着し終える。
二人のもぴったりに作られてたみたいで特に問題はなさそうだ。
「大丈夫そうだな。ほれ、請求書。支払いはいつでもいい」
「すいません、ありがとうございます」
……高い。
いやオーダーメイドって時点でこうなるのはわかってたけど……うん、しばらく節約生活だな。
「今日から迷宮に行くんだろ?」
「はい、その予定です」
「じゃあ行ってきたらどうだ?実際動いてみねぇと分からんところもある。なんかあったら直してやるよ」
「ありがとうございます。それじゃ、行ってきます」
「行ってきます」
「行ってきます!」
「おう、ちゃんと生きて戻ってこいよ」
「はい!」
鍛冶場を出て、ギルドを飛び出て、緊張よりも興奮が勝つ足で迷宮区に向かって歩き出す。
道は覚えてるし、早朝で人が少ないこともあってか三十分もかからず迷宮の前に着く。
「お、来たか」
「あれ?カイさん?早いですね」
「まあな。お前たちも今からか?」
「はい。今から検問所で手続きする予定です」
「そうか。まあ昨日教えた通り書けば問題ない」
「わかりました。じゃあちょっと手続きしてきます」
「そうか。じゃあ先に入ってる。まあ頑張れよ!」
「ありがとうございます」
カイさん達と別れ、検問所で手続きをする。
昨日教えてもらった通り名前、所属組織、滞在予定時間を書き込み、手続きを終える。
「終わったよ」
「ありがとう。──やっと、ここまで来たんだな」
「うん、やっとここまできたね」
「本当に、長かったね」
本当にここまで長かった。あの村で冒険者になると決めてから十五年が経った。
そして今、夢のスタートラインに立っている。
「──行こう」
「ああ」
「うん」
今、永い永い十五年の助走を終え、スタートラインから走り出す。