5-22 迷宮の歴史
迷宮の入口から少し離れた場所、石造りの建物の前で立ち止まる。
「ここは迷宮探索者専用の国営病院だ。迷宮探索で負った傷なら身分や傷の程度関係なく治療してくれる。常に腕の良い聖術師が待機してて身体的な負傷も、精神攻撃の影響も治してくれる。それにありがたいことに迷宮探索者限定でタダだ。俺も何度お世話になったか分からん」
「便利な施設ですね」
「ああ。いざというときのために戻ったらヒナにも共有しておこう」
「そうするといい。ただまあお世話になることがないのが一番のだけどな。よし、次行くぞ」
病院を離れ、また歩き出す。
次はどこだろ……検問所、病院ときてあと迷宮関連の施設って何があったっけ……
「次はここだ」
紫屋根で木製の建物の前で立ち止まる。
なんだろこの建物……中から賑やかな声が聞こえるけど酒場?いやさすがに迷宮には関係ないし酒場ならギルドにもある。
でも《空間把握》で中を見ても酒を飲んでる大人たちしか見えない。
いや、正確には酒に手を付けず何かを熱心に見てる人もいる。
これは……新聞?内容はぱっと見迷宮の情報だ。
わかった。この建物は──
「ここは情報屋だ。迷宮のありとあらゆる情報がここに集まってる。どの層でどんな魔獣が出現したとか、聖遺物が発掘されたとかな。あとついでに飯も売ってる。数年前ここの店主が代替わりしてな、その新しい店主が人が集まるのを利用して新しい商売を始めたんだ。迷宮の近く、情報を得られるって条件がうまくハマって大繁盛だ。──さて、そろそろ昼時だしなんか食っていくか。奢ってやるから好きなだけ食え」
「いえ、案内までしてもらってるのにそんな……」
「気にすんなって。お前たちのことは気に入ってるんだ。先輩らしいことさせてくれよな」
「……わかりました。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
「よし、じゃあついてこい!」
カイさんに連れられるまま中に入り、開いてる席に座る。
「どれがいい?」
「じゃあ……この定食でお願いします」
「俺はこっちので」
「わかった。お〜い!牛定食二つと鳥定食一つ頼む!」
「はいよ〜少々お待ち〜」
人を呼ばず厨房に直接声をかけて注文システムなのか。
……それでちゃんと把握できるのか?
「さて、料理が届くまでまた少し小話をしてやろう。迷宮が何層まであるか、という事について考えたことはあるか?」
「確かその話は色々研究されてましたよね。五十層で終わりとか、百層まであるとか、十層で終わりとか、無限に続いているとか。でも確か定説は五十層で終わりって話だったと思います」
「よく知ってるな」
「学院で教えてもらいました」
「細かいとこまで教えてもらったんだな。良い先生だ。それじゃ、なんで五十層で終わりって考えられてるか知ってるか?」
「いえ……そこまでは。マルク知ってる?」
「いや、俺も知らないな」
「じゃあ答え合わせだ。なんでもお偉いさんの説によると、この星の直径に関係あるんだとさ」
星の直径......迷宮が地下に向かって伸びてる以上考慮すべきか?
「お偉いさんがどうにかしてこの星の直径を計算して、迷宮の各階層の天井の高さと床の厚さを測って、でまた色々計算して、そういう結論が出たんだとさ。だから今は五十層までっててのが一般的だな。なんでも星の中心一歩手間手前で止まる計算らしい。星の中心には干渉できないし、干渉すると星が崩壊するって説があるらしいからな」
「そうなんですね......」
「ま、これもまだ迷宮が九層までしか攻略されてないから比較対象が足りなくて確実とは言えないらしいけどな」
「ん、そういえば迷宮ってまだ九層までしか攻略できてないんですか?五年くらい前に九層まで攻略したって教わったんですけど、それ以来さらに深く攻略できてないんですか?」
「確かにあの報道から五年経ちましたけどまだ十層には行けてないんですか?」
「それなんだけどな、今までは下の階に降りる階段があったんだが九層にはそれが見当たらないんだ。階段の代わりに怪しげなものがあるからなそれが鍵なのか、はたまた探索不足で階段が見つかってないだけなのか、怪しいものを調べるために研究者を呼ぼうにも研究者が九層まで降りて来ようものならほぼ確実に魔獣に襲われて死ぬ。階段を探そうにも九層で死なずに活動できる冒険者が少ない、ってな具合で探索が進んでないんだ。これが『九層の謎』って呼ばれてる。俺も探しに行ってるんだが見つからなくてな。それで後進育成にも力を入れてるんだ」
「そうだったんですね……」
「なるほど……」
私たの推薦にはそんな背景があったのか……
というか今自分で最下層に潜れるトップクラスの冒険者ってことカミングアウトしたな?まあ強いのはわかってたけどさ。
「というわけで、九層の探索に加われるくらい強くなってくれると助かる」
「……頑張ります」
「……努力します」
話を聞いて思ったことがある。非力な研究者は九層の環境で生き残れないという話だ。
けど、私たちなら違うんじゃないか?
冒険者の大半は学どころか魔術の存在すら怪しい人たちだ。いくら実力があってもそんな人達が『九層の謎』を解き明かせるわけない。
けど私たちは学院で魔術の知識を学び、戦う力を身に着けた私たちなら『九層の謎』を解き明かせるんじゃないか?
行かなきゃ。私たちは、九層にいかなくちゃいけない。
きっとこれは私たちにしかできないことだ。
それに、何より面白そうだ。九層を超えたさらに下、十層に何があるのか、それがただ気になる。
行こう、今すぐは無理かもしれない。
けどいつか必ず、九層に行って、謎を解き明かして未知の十層に踏み込んでみせる!
唐突に書き込ませてもらいます、作者の藍本です。
最近投稿する時間が遅くなってしまい本当に申し訳ないです。
ただ本業がまた忙しくなってしまいまして……これからの投稿時間は不定期になりそうです。(今までも定期的ではなかったけども)
ただ、毎日投稿を止める気はないです。日付回ってもよほどのことがない限り一話は投稿する予定です。
ですのでこれからもご愛読のほど、よろしくお願いします。