5-21 迷宮区
ギルドを出て、まだ早朝だと言うのに活気あふれる街を歩いていく。
「さて、迷宮区に着くまで少し小話をしてやろう。この街の立地は知ってるか?」
「はい。確か円形に発展した街を関所で区切り、それぞれ東区、西区、南区、北区、そしてその中心に中央区──」
「その中央区のさらに中心に迷宮区、でしたよね?」
「そうだ。迷宮が発見された当初国が迷宮の周りに様々な施設を作り、国の土地にした。それが迷宮区だ。そして迷宮区を中心に発展していったのが中央区。中央区の開発にも国が関わってるから国の施設が色々あるな。代表的なところだと国営ギルド『アンブロシア』、ラタトスク騎士団本部とかな。だから街の中心に近づくほど治安が良くなるんだ。国の監視の目が届きやすいからな」
「そうなんですね……」
「ただな、中心に近づくほど治安が良くなると言ったが、この街で一番治安が悪いのは最中心、迷宮区なんだ」
「……迷宮の中、ですか?」
「そうだ。迷宮は魔物に罠、誰も監視できないのを良いことに犯罪に手を染めるやつもいる。まあ魔石とか財宝とかの金になるものたくさん持ってるんだ。そりゃ金目当てで来てるやつは横取りしに行くわな。いつの時代も人の欲に妬みは怖いもんだぜ。ちなみにそんなことしたらギルド追放じゃ済まないからな」
「わかってます。絶対やりませんよそんなこと」
これも入会時サインした書類の中に記載してあったルールだ。
まあもとからそんな事するつもりないし別にデメリットはないだろう。
「ならよし──っと、着いたぞ。ここが迷宮区だ」
関所の壁を挟んでなお視界を独占する石造りの建造物、荒廃した遺跡と呼ぶのがふさわしいその建物に目が奪われる。
「ようこそ、全ての冒険者が夢みる混沌の遺跡へ!歓迎するぜ!新入りたちよ!」
関所を越え、迷宮区へと踏み入る。
関所の壁という障害物が消え、迷宮の全貌が見える。
「凄い……」
迷宮もそうだが街並みもそこに居る人の活気が凄い。
売店の店員も、街を歩く冒険者も、この街のどこを見ても、誰を見ても、"本気"で生きているということが伝わってくる。
ただ、だからこそ残念だ。
《空間把握》が使えるからこそわかる。
路地裏にたむろした他者を見下した笑いを貼り付けたゴロツキが居ることが残念だ。
多分ああいう奴らが迷宮内で犯罪に手を染めるんだろう。一応警戒しとこう。
「さて、着いたぞ」
よそ見をしてるうちに目的地についたらしく、そびえ立つ迷宮の麓で立ち止まる。
雰囲気や人の流れからして多分ここが入口だろう。
「ここは迷宮に入るための検問所、まあ検問所ってほどの場所じゃない。ざっくり言うと迷宮に入るための手続きをする場所だ。名前、所属組織、滞在予定時間なんかを申請するんだ。それで、滞在予定時間を五時間以上過ぎると捜索依頼が張り出される。運が良ければギルドの仲間や冒険者が受諾してくれる。だから時間には気をつけろ。無駄に依頼金を払うことになるからな」
「わかりました」
「わかりました。……ちなみにここで迷宮に入らせてもらえないことってあるんですか?」
「ん〜、手続きの時身分の提示を求められるからそこで身分を明かせなかったり、明かした身分が犯罪組織として登録されてたりしたら止められる。というより後者の場合その場で拘束されるな」
「なるほど……つまりほとんど俺たちには関係ない?」
「ま、そういうことだ。悪いことしなきゃいいってだけの話だ。ただ冤罪にだけ気をつけとけ。因縁つけて印象操作したり、罪を擦り付けられたりする可能性もあるからな」
「わかりました。私たちは録音できる魔道具を持ってるので些細なことでも一応録音しとくことにします」
「へぇ、そんな便利なもんがあるのか」
「作りました」
「……あんまり知識無いからなんとも言えんがかなり大変なんじゃないのか?」
「まあ学院にいた時に少し研究しててギリギリ実用化に至った試作品です。一応特許も取得してるのでちゃんと証拠になると思います。一つ入りますか?」
「いいのか?いくら払ったら良い?」
「いえ、お金は要りません。色々お世話になってるお礼です」
「そうか……なら、ありがたく受け取っとく。よし!良いもん貰ったし見合うだけの仕事しないとな!次行くぞ!」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
歩き出すカイさんの後ろをついていく。
せっかくこんな頼れる案内人が居るんだ。学べるものはしっかり学ばなきゃな。