5-19 お祝い
「──っと、ごめんそろそろ切るね」
『わかりました』
「じゃ、研究頑張ってね」
『はい。僕が卒業するまでには必ず完成させます。それに今日は先輩に教えてもらった分進みましたしね。……やっぱり先輩には居てほしかったてす。先輩は多分──』
「それ以上言うと怒るよ?はぁ……みんなして同じこと言うんだから……私は自分のやりたいことに嘘はつかない。そういうふうに生きるって決めたから。それだけは曲げないし、曲げたくない。──それじゃ、切るね」
『……わかりました。また連絡してくださいね』
「うん。定期的に連絡はするつもりだから。それじゃまたね」
《通声機》を停止させ、通信を終える。
いや〜面白かった。最後揉めたけどこうやって知識を交わすのは意外と気持ちいいな。
また連絡しよっと。
っともう時間ないんだった。早く酒場に行かないと。
最低限身だしなみを整え、部屋の扉を開ける。
手早く施錠し、少し早足で歩き出す。
ちょっと遅れるな……
ちょっと知識交換に熱中しすぎたな。ジェイド君のスケジュールの邪魔になったかもしれないし今度からは気をつけないと。
「あ、レイチェルちゃ〜ん、こっち〜」
「ごめん遅れた!」
「いや、俺たちも今合流したところだ」
「そうだよ〜。全然予定通りの時間だし大丈夫だよ。それより早く注文しよ!」
「そうだな。レイはどれがいい?」
「じゃあ……これがいいな」
「わかった。すいませ〜ん!」
マルクが店員を呼んで注文を済ませていく。
そして祝いの席も兼ねてるからか酒も注文してた。
まあ私はいいけどまたヒナが酔い潰れないか心配だ。
治癒魔術で治せるとはいえ体に悪い。今日はほろ酔いくらいでとどめておいてほしいな。
「お待たせしました〜!」
「ありがとうございます」
「ご注文されたものはこれで全部であってますか?」
「はい」
「それでは、ごゆっくりどうぞ!」
料理とお酒を運び終えた店員は空になったトレーを手に厨房へ戻っていく。
「それじゃ、私たちの初仕事の成功を祝って、乾杯!」
「乾杯!」
「乾杯!」
木製のジョッキをぶつけ合い、黄金色の苦い液体を食道に流し込む。
「──っはぁ〜慣れると意外といけるね」
「だな。最初はクセが強くて飲みずらかったけど慣れると刺激がクセになるな」
「おいしいよねぇ〜」
「程々にね。昨日飲み過ぎて二日酔いになってたんだし」
「わかってるわかってる──っはぁ〜」
本当にわかってるのだろうか......
やっぱり一度アルコールの危険性を教えるべきか?
──いや、酒は百薬の長とも言うしちゃんと加減が出来てるなら良いか。
それに祝いの席だ。ここでそんな事を言うのは野暮だろう。
今は、この瞬間を楽しもう。
「......言わんこっちゃない」
結局あの後ヒナは酔った勢いで加減を忘れ飲み続け、酔いつぶれた挙句酒場で寝落ちした。
「レイ、治せるか?」
「やってみる。《治癒》」
魔力が薄緑色の光が手のひらから零れ落ち、ヒナの体に染み込んでいく。
「ん......んぅ?」
「ヒナ、起きて」
軽く体を揺さぶりながら声をかけるが──
「駄目そう。多分ただの酔いは治癒魔術じゃ治せない。頭痛とか目眩と違って酔いが状態異常として認識されてないのかも」
「そうか......仕方ない、部屋に運ぼう」
「じゃあ私おんぶして行くからお会計よろしく。はい、お金。それと後でヒナの部屋の扉開けて。多分鍵は......あった」
ヒナのポケットから鍵を抜き取りマルクに渡す。
「よし、行こう」
「先に会計してくる。後で追いつくから先に行っててくれ」
「わかった」
マルクと一旦別れ、ヒナの部屋を目指して歩き出す。
昨日もこうやって送り届けたから道に迷うことなく一歩ずつ足を進めていく。
「え〜っと……あった」
道を覚えてたおかげで《空間把握》を使わなくても五分も経たずに辿り着けた。
「すまん遅れた」
「マルク?早かったね」
「借りてるのが近くの部屋だから道を覚えてたんだ。……よし、開いた」
さっき渡した鍵でマルクが鍵を外し、ヒナの部屋に入る。
そしてそのまま簡素なベッドに背負っていたヒナを寝かせ、部屋を後にする。
「じゃあ俺は部屋に戻る。また明日」
「うん、また明日。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
短く言葉を交わし、マルクとも別れる。
酔いで火照った体を動かし、眠気を押して部屋のベッドめがけて歩き出す。