5-16 強盗未遂
「じゃあ私《光透迷彩》で奇襲かけられる所にいるからマルク適当に気引いてもらっていい?」
「ああ。なんか適当に話して時間稼ぐ」
「じゃあ私マルクの近くに隠れとくね」
「わかった。あ、できたらその面倒な取引相手っていう情報引き出してくれたら助かるかな。もし間違ってたら問題になるからね」
「わかった。それとなく聞き出してみる。セノさん、相手が狙ってる物の心当たりはありますか?話の材料にしたいです」
「多分うちの家宝の刀だ。あいつらここ最近それ狙いでずっとお仕掛けてくるんだ」
「ありがとうございます」
「それじゃ行ってくる。《光透迷彩》」
魔術により透明化し、店の裏口から回り込む。
……よし、ここらへんでいいか。
あとはマルクに合わせるだけだ。
「すいませーん、どなたかいらっしゃいますかー?」
「はい──え〜っとどちら様でしょうか?」
「チッ誰だよ……──ええっと店主のゼノさんはいるかな?」
「いえ、今は居ません。なので店番を任されています」
「そうですか……」
「何か用があれば私から伝えておきますが……」
「そうだな……じゃあ『グリード』から商談の申し込みが来たって伝えてくれるかな?」
「わかりました。……ところで一つお尋ねしますが以前もゼノさんに商談を申し込まれたことがありますか?」
「そうだね。最近はよく商談にきてるかな」
「ここ最近何度も、ですか。失礼ですが何をお求めで?」
「……おい、どうする?」
「……別に言っても良いんじゃねぇの?上手くいけばこいつから引き出せるかもしれねぇ」
「……魔刀『紫電』だ。長いこと探してたんだがようやく見つけてな」
「わかりました。かなり高額ですが料金の方を確認させてもらってもいいですか?」
「いや、先に商品の方を見せろ。料金はそれからだ」
「……わかりました。少々お待ちください」
いい感じに引き出してくれた。
私も一回戻ろうかな。
《空間把握》で動きは把握できるしこの時間を使って作戦会議したい。
「マルクありがとう。ゼノさん、その魔刀をあいつらに見せたことは?」
「一回もない。あれはうちの家宝だ。そうそう怪しい奴らに見せたりしない」
「なるほど……あいつらはその刀の見た目を知ってるか分かりますか?」
「多分知らないな。どっからか『紫電』の情報が噂になってあいつらが来たんだ。多分詳しい情報は知らない」
「ならマルク、この刀を持っていって。それで相手の出方を見たい」
「いいのか?これレイの刀じゃ……」
「大丈夫、もう一本剣はあるしなんかあったらすぐ戦える位置にいるから。それとゼノさん、申し訳ないんですが相手が普通に買おうとしてきたら裏口から戻ってきたのを装って止めてくれませんか?普通に買われると取り戻しようがなくなるので。すぐ出れる位置で待機しててください」
「わかった、そこは任せてくれ。俺も自分の家の家宝守るのに他人の手借りてばっかじゃ情けないからな」
「すいません、ありがとうございます。じゃあマルク、また交渉お願いね」
「任せてくれ」
フェイク用の私の刀をマルクに渡し、もう一度透明化して奇襲をかけられる位置に戻る。
「すいませんお待たせしました。こちらでお間違い無いですか?」
「これが……一応本物かどうかだけ確認してもいいか?話じゃ雷を放てるって話だが……」
「わかりました。危険なので私が確かめますね」
そう言うと鞘から刀を抜き、振るのと同時に紫電が奔る。
さすがマルク、魔術でうまいこと誤魔化してくれた。
あとは相手の出方次第……
「本物じゃねぇか!じゃあ早速頂くとするか」
「では代金の方を……」
「ハッ!んなもん最初から払う気ねぇよ!囲んでボコるぞ!たとえ聖遺物の類でも持ってんのがこんなガキなら無理矢理奪え──」
「《氷結拘束》!マルク!」
「ああ!《岩縛》!」
「な──!?クソっ外れねぇ!?」
「窃盗、強盗の現行犯。なんなら暴行も未遂がつくかな?もちろん証拠として録音もしてある」
学院の頃の研究成果の一つ、というよりは『通声機』の応用、『録声機』による録音を流す。
『ハッ!んなもん最初から払う気ねぇよ!囲んでボコるぞ!たとえ聖遺物の類でも持ってんのがこんなガキなら無理矢理奪え──』
うん、これ以上ないくらいの証拠だ。
「それに店主のゼノさんも見ててくれたしね。さて、いろいろ聞きたいことがある」
「あぁ!?このガキが!これ外しやがれ!」
「騒いでいいの?これ以上証人を増やすことになると思うけど。まあこれから騎士団の人呼びに行くし騎士団の人たちが来るまでは好きにしたらいい」
「騎士団──そうだ!こんなことしてお前らもタダで済むと──」
「思ってるよ?だって正当防衛だし、一部始終を見てた証人もいるし。それにあなたたちに身分を証明できる物あるの?私たちには……ほら、これがあるから」
「は、はぁ?そんなおもちゃがどうしたって言うんだよ?」
「声が震えてるよ。それに、この街に住んでる時点で『アンブロシア』の徽章を知らない訳ないよね?それにこっちは戦魔術師の徽章もある。騎士団がどっちの言い分を信じるかは、明らかだよね?」
「ク、クソ……」
「マルク、拘束する場所変えるからこいつら奥に運び込むの手伝って」
「わかった」
「ヒナ、ごめん騎士団の人たち呼んできてくれる?」
「わかった。ちょっと行ってくるね」
「ありがとう」
さて、なんとか上手くいったな。
相手を嵌める形になったがまあ証拠は掴めたし完全に優位に立てた。
それに、マルクとの交渉の一部始終は録音してある。
これを騎士団の人たちに渡して終わりかな。
途中出た『グリード』って名前の組織、魔刀『紫電』も気になるけどそれは私たちが関与する話じゃない。
私たちがするのはあくまで依頼通りに依頼主の身を守るだけ。
犯人を取り押さえるのはあくまでオマケ。やりすぎるとこっちが罪に問われかねないしね。
それにあとは騎士団の人たちの仕事だし、また何かあったらギルドを通して話が回ってくるだろう。
とりあえずは一件落着、かな?