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5-12 過去の思い出

「ご注文はお決まりですか?」

「はい。この定食を三つお願いします」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 三人全員が席につき、注文を終える。


 注文したのは羊肉(ラム)のステーキの定食だ。

 こっちの食文化は詳しく知らないので無難なものを選んだつもりだ。


「ねえちょっといい?」


 注文を終えたのにメニューとにりめっこしていたヒナが質問を投げかける。


「私たちってさ、もうお酒飲めるんだよね?」

「法律上はそうだな」

「じゃあさ、ちょっと飲んでみない?」

「えー……」

「まあいいが……」


 私としては気が乗らない提案だった。

 なんせ前世では二十歳を超えるまでは体が成長しきってないからアルコールを分解できず毒になると教わってる。


 それにギルドに入会したてで覚えなきゃいけないこと、学ばなきゃいけないことはまだたくさんあるだろう。

 そんなタイミングでこういう浮ついたことをするのは気が進まない。


「じゃあちょっと頼んでみよ!すいませーん、麦酒三つお願いしま〜す!」

「あ〜……」

「……仕方ない。ここは経験くらいに思っとくか」


 こういうとこでの好奇心の強さは昔から変わってないんだよな……

 まあヤバそうだったら飲むの止めればいいし少しずつちびちび飲んで様子見るか。


「お待たせしました〜!こちら定食と麦酒になります」

「ありがとうございます」


 運ばれてきた料理を卓上に並べ、ビールが注がれたジョッキを手にヒナが乾杯の音頭をとる。


「それじゃ!私たちの夢への第一歩を祝して、乾ぱ〜い!」

「乾杯!」

「まあいいか、乾杯!」


 木製の小さな樽のようなジョッキをぶつけ、生まれて初めてアルコールを口にする。


「ごぶっ!?」

「──はぁ〜」

「苦……」


 勢いよく飲んだヒナはむせ返り、マルクは肺に満たされた麦酒の風味を深呼吸して吐き出し、及び腰で少しだけ口に含んだ私はその苦みで飲むのを止める。


 うん、まあ初めて飲んだ人ばっかりだし想像ついてたよね。


「ヒナ、大丈夫?」

「ゴホッゴホッ──はぁ……はぁ……大丈夫、ちょっと変なとこ入っただけ。──うん、飲める飲める。おいしいよ?」

「そ、そう......」


 結構勢いよく飲むな......

 ......食べるか。


 そうして酒と箸が進み──


「ははっ!あれおもしろかったよね!けんきゅうしつでわたしがどーんってやっちゃってさ〜」

「あったねそんなこと......ヒナ、そろそろ止めといたら?」

「ああ。ちょっと酔いが回りすぎてるんじゃないか?」

「へーきへーき!いやいがいとおいしいね!すいませ──」

「やめとけ」

「え〜?」

「うん、そろそろ止めとかないと明日に響くよ?」

「う〜ん......わかった......」

「じゃあ行こう?マルク会計任せていい?お金先渡すから」

「ああ。ヒナを部屋に連れてってくれ」

「うん。じゃ、また明日」


 酒場を離れ、ギルドの宿にヒナを寝かしに向かう。


















「え〜っと......あった。ヒナ、鍵貸して」

「ん〜?は〜い」


 酔っ払って呂律が回らなくなったヒナから鍵を借り、ヒナが借りてる部屋を開ける。


 私の部屋と変わらない簡素なレイアウトの部屋の景色が目に入る。

 ただ私の部屋と違う点があるとすればヒナの荷物だ。


 机の上に広げられた荷物の中には学生時代からの思い出の品もあり、なんだか懐かしい気分になる。


「よっこいしょ……っと。それじゃ私戻るからね」

「ふへへ……レイチェルちゃんありがとう……」

「はいはい、それじゃ──」

「うんん……十年前のことだよ」

「十年前……」

「あのときはね、後から思えばめちゃくちゃな方法だったけどさ、なんか嬉しかったんだよ」


 あの時のことか。

 子供の時のことだったし忘れたと思ってたが覚えてたか。


 それにしてもなんで今お礼なんて……

 あんな滅茶苦茶やって礼なんて言われる筋合いないのに。


「あの時はお祈りの時魔力伸ばしたくなくても勝手に伸びて行ってたから怖くてね、ずっとこの力は使わないほうがいいんだって思ってたんだ。でもね、自分の力を使ってもいいんだって、人に頼っていいんだって、自信が持てたんだよ。だからね、──ありがとう、レイチェルちゃん」


 そんなふうに思ってたのか……

 ヒナの特異体質についてはまだ何も分かってない。あれから十年経った今でもだ。


 周りと違う怖さってものは前世でよく理解してる。

 少しでも支えになったなら良かった。


「どういたしまして。おやすみ、ヒナ」

「おやすみ、レイチェルちゃん」



 短い言葉と互いの名前を交わし、ヒナの意識は深い微睡みの中に沈む。

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