5-3 帰省
「すいません遅れました!」
「いえいえ、大丈夫ですよ。それじゃあ、出発しましょうか」
「はい、お願いします」
馬車に乗り込み、御者が御座に座る。
まさかこんな急いでここを出ることになるとは思わなかったが、まあ何とかなるだろう。
......でも、やっぱり寂しいものだな。
十年過ごし人生を積み重ねた学び舎だ。何だか物寂しい。
しかしこれは喜ばしいことであって、悲しむべきことでは無い。卒業という成長の証なんだから。
それに、悲しいことばかりじゃない。
父さんたちに会うこと、冒険者として働けること、そして、前世の年齢を超え、ようやくこの世界の住人として自分を認められたこと。
そう。悲しいことばかりじゃない。喜ばしいことだってある。
......なんかそう考えると楽しみになってきたな。
「そろそろ出しますよ?良いですか?」
「はい。よろしくお願いします」
十年前の旅の焼き直しが始まった。
あれから二日、十年前と同じ道のりで、同じ時間をかけてその道のりを辿り戻った。
戦魔術師──というか上級職業の権力は本当に凄いらしく、先生から貰ったバッチを見せただけで街の関所の検問はパス。宿代すら割引されてしまった。
おかげで想定より早く進んで楽だったし、旅費の出費も抑えられた。
そして──
『あーあー、聞こえてますか?』
「聞こえてるよ。『通声機』も問題なさそうだね」
『だな。これも問題なく使えそうだ』
「あ、マルク。そっちはどう?」
『今寮の部屋で荷物を片付けてることろだ。俺達もそう長くは部屋使えないしな。早めに出ていかないと』
「予定だと出るのは四日後でしょ?そんな急がなくてもいいんじゃない?」
『まあ余裕はあるが早めに行動するに越したことはない』
「まあそれは同感かな」
『それで、そっちはどうなの?』
「今宿の部屋にいる。明日には着くかな。特権のおかげで少し早く着きそう」
『そうか。滞在時間は予定通り一日だけか?』
「んーそうだね。予定より早く動いてるけど一日だけかな。馬車の予約の条件もあるし。それに早めに二人と合流したい。ギルドの入会日まで時間はあるけど初めて行く街だから余裕もって動きたい」
『分かった。それじゃ『迷宮都市ラタトスク』に着いたらまた『通声機』を使って合流しよう』
「了解」
『それじゃ、おやすみ』
『おやすみ!』
「おやすみ」
稼働を停止し、魔源を落とす。
『通声機』も大丈夫そうだな。
まだ研究途中だったけどそれなりに使える。
まあ魔力の消費がやばいけど。
小型化したいのに魔源に魔石が必須で少しかさばるのが難点かな。
まあジェイド君達が改良してくれるでしょ。
さて、見知らぬ街の宿の部屋に私一人。
やることもなければできることも無い。
というか一人部屋なんていつぶりだろう。
学院に入ってからはずっと二人と一緒の部屋だったからな......
男女一人ずつにどっちつかず一人......十年過ごしておいてなんだがとんでもないことになってるな......
よく問題が起きなかったものだ。
これはやっぱり改善しろって苦情出しとけば良かったかな?
......まあなんかあったら嫌でも改善しなきゃ行けなくなるし私が言わなくてもいいか。
......てか結局やることなんも無いな。
......明日も早いし寝るか。
ランタンの火を消し、ベッドに潜り込む。
翌日の早朝から御者と二人で懐かしい故郷に向かって馬車を走らせる。
平野を抜け森に入り、森を抜け関所を超え、宿を出てから約五時間。
懐かしい故郷の村が見える。
早いな。前は朝に出て夜に到着したのに。
やっぱ特権って凄いな......。
「着きました。それでは次の出発は明後日の朝ということでよろしいですか?」
「はい。それでお願いします」
「それでは宿の方に居りますので何かあればお呼びつけください」
「はい。ありがとうございました」
村の入口で御者と別れる。
そして、迷うことなく家に向かって歩き出す。
十年前と変わらない風景を、変わらない道を歩き、父さん達が待つ家を目指す。
ああ、子供の時はもっと時間かかったのにな。
今じゃこんなに早く着いちゃった。
手紙で伝えた予定より早いけど父さん達どんな顔するかな。
「......よし」
意を決し、家の扉を叩く。