5-1 前日譚のおわり1
あれから色々あった。
けど、魔闘大会というイベントを通して色々経験したせいか、新鮮ではあるもののどこか退屈だった。
いやもちろん忙しいし、楽しいし、やりたいことに忙殺される毎日だった。
けど先生が言ってたことは間違ってなかった。
魔闘大会が学院生活で一番大きくて印象に残るイベントということ。
そのせいか、何があっても魔闘大会の刺激と比べてしまい、どこか退屈だった。
そして、また多少の変化こそあるものの繰り返しで単調な毎日に戻る。
右腕のリハビリ、魔闘大会を通して見えた課題に対する訓練、新しい課外。
その全てが充実してて、あっという間の出来事だった。
そう。あれから五年が経った。
そして、十年間効率化を突き詰め訓練を積んだ私たちからすれば戦魔術師の試験なんてできて当たり前のことを要求されるだけの内容で、就職先も決まってる私たちからすれば、今が人生で最も暇な時間。
その時間を使って、もう終りに近い学院生活を、さらに積み上げる。
「あ!居た!」
「……ヒナ。研究室なんだから静かに」
「は〜い。それで、何してたの?」
「研究。まだやりたいことあったからさ」
「まだなんかやるの?たくさんやってたじゃん」
「いや、増やすんじゃなくて、もっと深く研究してるとこ。色々やってたから時間足りなくてね」
「だろうな。レイは色々手を出しすぎなんだ一体何個研究してるんだ?」
「う〜ん……多分八個くらい?『拡張収納』と『戦術魔道具の小型化』とか……あと三人でやってる『翼ある巨兵』と二人の『魔制具』も手伝って、その逆で『魔増具』の研究もかな。あと……」
こうして考えると我ながら色々作ったな。
でも半分くらい共同開発なんだよな。
これなんとびっくり『拡張収納』の開発は上位魔術師クラスも手伝ってくれている。
おかげで色々相手のこと知れたし仲も良くなったが残念ながらあっちは五人とも国が直接運営する組織に就職することが決まってるらしく関わることは今後ほとんど無いだろう。
まああっちは全員家が貴族らしいし色々事情があるんだろうな。
「……いつか悪用されないことを祈るよ」
「まあ制御機構は組み込んであるし悪用しようとしたら自壊する仕組みになってるから」
「そ、そうか……てかそんなやってて終わるのか?」
「まあ無理だろうね。だから後継者がいるわけで」
「あいつらか……ほんとに任せるのか?利権とか色々共同開発扱いになって利益減るが……」
「そこら辺は話つけてあるから大丈夫。というかそもそも利益とか期待してなかったしね。作りたいもの作っただけだもん」
「これだけ実用的な魔道具の利権持ってたら一生働かずに生きていけるだけのお金が入りますよ……それこそ冒険者とか危ない仕事やらなくても」
「うっ……っていやいや私は好きで冒険者目指してるだけなんだからいいの!てかジェイド君来てたんだ」
「はい。せっかく先輩の研究引き継がせてもらえることになったので僕の代で完成させたいんです」
「別にそんな急がなくていいのに。あと五年あるじゃん」
「僕は先輩みたいに天才じゃないんで急がないと間に合わないんです」
「別に私も天才とかじゃないよ?」
「またまたご謙遜を」
「えぇ……てかジェイド君いつも研究室居るよね。戦魔術師クラスだし忙しくないの?他の五人にも頼めばいいのに」
「いや他の五人も色々手伝ってくれてますよ。リリィは今図書室の方で参考文献探してきてくれてます。というかリリィも戦魔術師クラスだし他の四人も上位魔術師クラスなんで全員忙しいですよ」
「これから大変な時期だもんね。魔闘大会とかあるし。リリィってもう一人の戦魔術師の子だよね。ジェイド君の年は二人しかいないんだっけ」
「はい。僕とリリィの二人だけです。というか先輩の年が多すぎるんですよ。なんですか戦魔術師クラス三人上位魔術師クラス五人って。毎年合格者が出るだけでも凄いんですよ?」
「へえ〜そうなんだ」
そんなレベル高いんだ。
いやまあ難しいのは知ってたけど合格者0の年ができるくらい難しいのか。
定員とかないしほんと実力だけで判断するのは知ってたけどそこまでとは思ってなかったな。
「──なあ、そろそろいいか?」
「ああごめんマルク。それでなんだつけ?」
「先生が呼んでる」
「それでレイチェルちゃん探しに来たんだよ」
「わかった。ごめんちょっと行ってくる」
「行ってらっしゃ〜い」
三人に見送られ研究室を後にする。
そして出た後、三人の会話が少しだけ聞こえた。
「お前も大変だな……」
「はい……」
「頑張れ!」
なんか私やったっけ……