4-44 魔闘大会の終わり
「それでは、皆さんの優勝を、そしてレイチェルさんの退院を祝して、乾杯!」
「かんぱ〜い!」
「乾杯!」
「乾杯」
先生を含め四人で祝杯を挙げる。
別に呼びに行ったわけじゃないけど食堂に来たらたまたま出くわしたのでそのまま一緒に食事を取ることになった。
時間的に夕食になるのかな?
長いこと寝てたせいで生活リズムが崩れたせいかなんか不思議な気分だ。
まあ今はそんなことどうでもいい。
空腹にスプーンで料理を運び込む。
今はとにかくお腹が減った。
好きなものだけ積み上げた皿の上からどんどんスプーンで口に運んでいく。
普段はもう少しバランスとか考えるんだが今日は祝宴。
たまには贅沢してもいいだろう。
箸が使えれば良かったんだが利き腕がまだ上手く動かせないので仕方なくスプーンで食べる。
スープ、サラダ、ステーキ、焼き魚、和食洋食関係なく胃に流し込む。
ああ、美味しい。
空腹は最高のスパイスというがこれほど感じたことは初めてかもしれない。
「ふふ、それだけ食べられるならもう大丈夫そうですね」
「はい。腕のいい聖術師の人達のおかげで」
「治ったのは良かったけどさ、もう無茶しないでよね」
「いや──……ごめん」
「まあこれはヒナさんが正しいですね。一騎打ちは私も許可しましたけど決勝戦のアレはちょっと無謀です」
「はい……」
「確かに、空を飛ぶ魔道具や魔術は研究、開発が進んでおらず、経験が無いのはそうでしょう。しかし空を飛ぶ魔物や投擲物に対しての対策はあります。それをそのまま流用されましたし、あの程度の高さなら魔術が届きます。それも魔術を主に学ぶ上位魔術師クラスならなおさら。対応は出来てましたがそれもかなり魔力を使ったでしょう。それでは人数不利のあなた達にとって不利な条件でしかありません」
「はい……」
作戦の弱点全部見透かされてる……
「結果的には奇襲が決まったし、連携も出来てたので勝てたので良いのですが」
「はは……」
「まあ、魔闘大会を通して学んだこともあるでしょうし、また頑張っていきましょう」
「はい!」
こうして祝の席に、熱がこもっていく。
先生に呼ばれ職員室へ寄る。
なんでも渡したいものがあるらしい。
「え〜っと……あ、あった。はい、どうぞ」
「これは……賞状ですか?」
「ええ。優勝賞書です。先に二人に渡しておいても良かったんですがやっぱり三人揃ってる時に渡したかったので。部屋にでも飾っておいてください」
「わかりました」
「ああそれと、レイチェルさん。親御さんから伝言があります。『家のことは心配するな。学業に励みなさい』と」
「分かりました……先生つかぬことをお聞きするのですがこの学院の学費って年間いくらほど……」
「え、聞かないほうが良いと思いますよ?」
「……はい」
きっと胃が痛くなるから止めとこう……。
……もう痛いけど。
「それじゃあこれで用事は終わりです。それでは、おやすみなさい」
「賞状どこに飾る?」
シャワーを浴び、寝巻きに着替え
「そりゃあ」
「ねえ?」
「え、何?」
「そりゃ一番の功労者の机に決まってるだろ」
「だよねぇ」
「えぇ……?なにそれ、みんなで勝って取ったものなんだからもっと別の場所のほうが……」
「いいのいいの!」
「ああ。俺もそこがいい」
「えぇ……」
ほんとにそんなところで良いのか……?
てかもう額縁に入れて飾ってあるし。
……まあいっか。
「はぁ〜……」
大きく深呼吸をしながらベッドに体を投げ出す。
ああ、なんだか落ち着く。
というより疲れたな。
いや一週間寝てたらしいから体は疲れてないんだけど。
だから疲れてるのは心や精神の方。
ここしばらく緊張してることが多かったからかな。今になってどっと疲れが来た。
「なんだかやっと終わったって感じだね」
「ああ」
「うん」
だから、全部終わった今だから言えることを言う。
「私はさ、色々あったし大変で疲れたけどさ──楽しかったよ。二人は?」
「……俺も楽しかった。冷や冷やすることも多かったけどな」
「私も。楽しかった!」
ああ。本当に全部終わったんだな。
「──今日はもう寝よっか」
「だね〜私もなんか疲れた」
「だな。寝るか」
各々ベッドに潜り込み、明かりを消す。
そして、一言だけ交わす。
「おやすみなさい」
「おやすみ!」
「おやすみ」
今この瞬間、本当の意味で、『ランドラ魔闘大会』が終わった。