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4-43 心配の行き先

 ……気まずい。


 部屋の前まで来たは良いもののなんて言って入ればいいのか全くわからない。

 そもそも前回の怪我であんなに心配されたのに今回はさらにひどい怪我をしたんだ。なんて言われるか……


 ……このまま突っ立ってても仕方ないか。


 覚悟を決め、扉を開く。


「た、ただいま……?」


 静まり返った室内に私の声だけが響き、それから一拍置いて足音が響く。


「レイチェルちゃん!!」

「レイ!!」

「た、ただいま……」

「腕!腕は大丈夫なの!?」

「大丈夫、治ったから、だからちょっと離れよ……?」


 マルクは胸を撫で下ろし、ヒナは飛びかかってくる。


 く、くすぐったい……


「レイ、腕はもう大丈夫なのか?」

「うん。まだ上手く動かせないけどちゃんと治ってるよ」

「そうか……よかった……」

「心配したんだからね!?」

「それは……うん、ごめん」

「とりあえず、無事でよかった。あと、レイが倒れてから色々あってこっちも話さなきゃいけないことがあるから、部屋に入ってゆっくり話そう」

「そうだね」


 部屋に入り、椅子に座る。

 なんか落ち着くな……ようやく終わったって感じがする。


「とりあえず一つ聞いとく。今日が何日か分かるか?」

「あ……ごめん、わかんない」

「……決勝戦から一週間経ってる」

「え……」

「これだけでどれくらいひどい怪我だったのか大体わかるだろ」

「……うん」

「それを踏まえて、話さなきゃいけないことが二つと、俺たちから言いたいことがある」

「レイチェルちゃん、また無理させてごめん」

「俺からも、ごめん。あの時俺が反応できなかったせいでまたレイに怪我させた。本当に申し訳ない」

「いや……大丈夫だよ。二人は頑張ったと思うし、間違いなく全力だったと思う。それでたまたま怪我したのが私だっただけだし、仕方ないよ」

「いや──」

「いいって。そもそも構築で手一杯になるのが共術の弱点だったし、付け焼き刃だったから尚更。私とマルクが両方巻き込まれなかっただけ良かったんだって。それに、相手も強かったし、全力で戦って、それでたまたま怪我したのが私だった。仕方ないよ」

「……ごめん」

「……ごめん」

「治ったからいいの。それより、話さなきゃいけないことって?」


 多少無理矢理でも話題を変えないとこのまま話がこじれる一方だ。

 さっさと話題を変えないと。


「……まず一つ目だ。決勝戦は俺たちの勝ちだった。それで、優勝者として、表彰式に俺とヒナの二人で出席したんだ」

「レイチェルちゃんは来れなかったから仕方なくね。流石に表彰式は欠席できないし、延期もできなかったから」

「うん。まあそうだよね」

「それでな……魔闘大会の優勝者として俺たち全員に引き抜きが来てる。それも騎士団、冒険者ギルド、あまり名前を出せない暗部の組織まで含めて何十もだ」

「は、はぁ……」


 暗部の組織……こんな公の場で名前出して引き抜きとかいいのか?

 ていうかなんて返したらいいんだ……


「そこでなんだが、うちの──ヴァルス家が運営する国営冒険者ギルドに来ないか?これはもうヒナに話してあるし、ギルドにも話を通してある。この話を受けるかどうかは『当人の希望を尊重する』そうだ」

「はぁ……まあ別にいい──というかこっちからお願いしたいくらいなんだけど」

「だよね……」

「わかった。それじゃあ話を受けると報告しておく。これで他の引き抜きも問題なく断れるだろう」


 問題なく……というか問題を起こさせないだ正しくない?

 家と組織の力を使って黙らせてない?


「とりあえずこれで一つ目の話はこれで終わりだ。──ああそういえば、表彰式関連で先生が呼んでたな。時間を使って行っておけ」

「わかった。それで二つ目の話は?」

「はいこれ」

「ん……これ手紙?」

「レイチェルちゃんのご両親からだって」

「父さんたち?」

「ああ。はい」

「ありがとう」


 マルクからレターナイフを受け取り封筒から手紙を取り出す。



『私たちの娘レイチェルへ


 レイチェルが家を出てから五年、元気にしてますか?

 こっちは色々ありましたが父、母ともに元気です。

 ただこの五年間、レイチェルが上手くやっていけてるかどうか心配しない日はありませんでした。


 それで、魔闘大会が行われる日にちに合わせて馬車を借り、観戦に行ったんです。

 今まで手紙でやり取りはしてたけど顔を合わせて話したかったんです。

 けど、それはできませんでしたね。

 なのでまた手紙にして送ります。


 試合にレイチェルが出た時、成長したレイチェルを見てとても嬉しかったです。

 けど、同時に不安もありました。

 ちゃんと戦えるか、怪我をしないか、と。

 結果的にどちらの心配も当たりましたね。


 試合では活躍したし、大きな怪我もしてしまいました。

 決勝戦のあとお見舞いに行ったのですが意識はなくて話すこともできませんでしたね。


 レイチェル、この手紙を読んだら返事を送ってください。

 そこで、まだ冒険者を目指すかどうか、レイチェルの意志を書いて私たちに教えてください。


 私たちはレイチェルが怪我をするのを見てとても不安になりました。

 できることなら怪我をせず、安全な職場で働いてほしいと思っています。


 けど、それを決めるのは私たちじゃなくてレイチェル。

 だから、私たちはレイチェルの意志を最大限応援したいと思ってます。


 ただそれでも不安です。

 だから、あなたが子供の時に言った、危険でも夢を追いかけたいという意志が変わってないか、それを教えてください。


          あなたの両親ルークとローラより


 追伸  卒業てきたら一度家に顔を出しに来てほしいです』



 手紙の内容に目を通し終える。


 父さんたち来てたんだ……心配させちゃったな。


 それに手紙の返事を書け……か。

 まあ結局私の意志は変わらない。今でも冒険者を目指したいと思ってる。

 マルクの話も受けたし。


 けど、私の意志と二人の心配は別の話だ。

 我が子が五歳で親元離れて危険な職を目指すなんて本当なら引き止めて当然の話だ。

 けど、それを二人は応援してくれた。


 多分応援したい気持ちと心配な気持ちで揺らいでるんだろうな。


 なら、早く私の答えを教えてあげなきゃ。


 二人は私に親として愛情を向けてくれました、応援もしてくれた。

 私にとっては前世の十五年の記憶があるから少し複雑な気分だけど前世の親は共働きに転勤で家に居ないことのほうが多かったし、疲れ切って話すことも少なかった。

 だから、前世の親とは親子ではなく、単純な人と人の繋がりでしかないように感じてた。


 だけど、ルークとローラは親子として接してくれた。

 そして何よりも小さかった私を一人の人として接してくれた。


 だから、その愛情に誠心誠意応えないといけないし、応えたい。


 手紙の内容、考えなきゃな。


「誰からだった?」

「親から。魔闘大会見に来てたって。あとで返信書かなきゃ」

「そうか。とりあえず、これで伝えなきゃいけないことは終わりだ。それでなんだが……」

「ん?何?」

「レイチェル、お腹減ってないか?治療の説明は俺達も聞いたんだがしばらく寝たきりだから起きた時はとても空腹になってるって聞いたんだが……」

「……確かにお腹減った」


 言われて気づいたが確かにそうだ。

 一週間寝たりきりで何も口にしてないなら腹は減るし、言われてようやく空腹に気がついた。


 これに気づかないってなかなかだな……。


「じゃあさ!ご飯いこ!まだみんなで優勝お祝いしてなかったからさ、みんなでお祝いしよ!」

「そうだな。レイ、行けるか?無理はするなよ?」

「大丈夫。普通にここまで自分で歩いてきたんだから平気平気。それより行こう?」



 祝杯を挙げに、空腹を満たしに、食堂へ三人で歩き出す。

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