4-42 快復
見知らぬ──というわけでもないか。
この天井を見るのは二度目だ。
……そして、できることならこれで最後にしたい。
「目が覚めましたか?」
「……はい」
「状態、説明したほうがいいですか?」
「……はい」
「では、軽く説明します。わかってると思いますが右肩から先が魔術によって斬り落とされて──いや、焼き落とされています。それに、焼き落とされた右腕も見つかってません。恐らく魔術によってそのまま焼かれたかと。あとは右腕を失ったことによる失血、重度の魔力欠乏症による指先の壊死などが見られますね」
「……治りますか?」
「はい。我々なら四肢の再生も可能です。それに条件も良いですしね。ただまあしばらく右腕には違和感なくというか、少し不自由がついて回ると思います」
「……わかりました」
治るんだ……。
なんかもうここまで来ると驚きとか喜び差し置いて良く分からない感情のほうが強い。
あと条件が良いってのは多分魔力がほとんど残ってないから反発せず術がちゃんと効くからだろうな。
「では施術を開始します」
「……お願いします」
「かなり長い施術になるので眠ってたほうがいいです。疲れてるでしょう?」
「……ありがとうございます」
促された通り目を瞑り体から力を抜く。
……怖いし、不安もある。
前世でも怪我で腕が使えない状況になったことはあるが本当に腕を失う経験なんて初めてだ。
けど、それ以上に今は眠い。
血を流しすぎたか、単純に疲れたのか、ただただ今は体が怠くて、眠い。
「『────』『───────』」
何か唱える声が聞こえる気がする。
多分詠唱だろうな。
でも、もうその声を聞き取るほどの体力も意識も残ってない。
心地いい暗闇に引きずり込まれるように、意識が落ちていく。
差し込む光で目が覚める。
……知らない天井だ。
どこだここ。
ごく自然な動作で右手をつき、起き上がる。
「あ……右腕──」
一度失ったはずの右腕がある。
義手でもなんでもなく、本物の私の腕が動いている。
それがどれほどの奇跡か、前世の知識を持つ私だからこそ分かる。
「よかったぁ……」
何よりもまず安堵の声が零れる。
次に手を閉じたり開いたりしてその存在を確かめる。
まだ上手く動かせないし力も入らないけど、確かにそこに腕があるということを感じる。
治療の腕を信じていなかったわけじゃないけど、前世で四肢を失った事例を知っているからこそ、ちゃんと治るか半信半疑だったのだ。
「目が覚めましたか?」
「はい」
「腕はどうですか?」
「まだ上手く動かせないです……」
「まあ正常な反応ですね。無くなったものを魔術で作り出してるわけなのでどうしても定着して馴染むまで時間がかかります。でもそのうち馴染みますよ」
「わかりました」
「あと、着替えはお友達が持ってきてくれましたよ。着ていた服はボロボロだったので処分しましたがよろしかったですか?」
「はい。すみませんお手数おかけして」
「いえ、安心してもとの生活に戻るまでが私たちの仕事なので、気にしないでください」
「ありがとうございます」
「では着替えたら案内します。外で待ってますのでゆっくりどうぞ」
「わかりました」
ベッドの横の机に丁寧に畳まれ置いてある制服を手に取り、水色の患者服から着替える。
ありがたいことに靴下や靴、髪ゴムに鏡までまで持ってきてくれてあり、普段と変わらない装いになる。
患者服を畳み籠に入れ、部屋を出る。
「すみません、お待たせしました」
「いえ、大丈夫です。それより行きましょうか」
「はい」
案内されるままについて行き、階段を降り、玄関へ出る。
玄関の外に広がるのは、学院構内の景色。
……ここ、学院の施設だったのか。
ほんとなんでもあるな……。
「それでは、お疲れ様でした」
「はい、お世話になりました」
挨拶を済ませ、入院?していた施設を後にする。
とりあえず、二人を探そう。
何よりもまず、無事だってことを二人に伝えなきゃ。
幸い魔力は回復してるので《空間把握》を使って学院の中から、二人を探していく。
「……見つけた」
寮の部屋の中に二人の姿を見つける。
そして、自分でもわからない申し訳無さや喜びが混ざった複雑な気分を抱え、歩き出す。