表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫神と縁のお結び  作者: 甘灯
二章
14/17

五話 訪問

(この人…誰かに似てる気がする)


 緒美はちらっと隣に座っている美久の父親の横顔を見る。

 正面を向いたまま腕を組んでいて、眉間に皺を寄せている姿に既視感を覚えた。

 車内に重い沈黙が流れる。

何か話を振ったほうがいいのかと緒美は迷ったが、ボロを出すとまずいので静かに窓の外を眺めることした。

 しばらくして住宅街を走っていたタクシーは、とある家の前で停まった。


「え…?」


 表札を見た緒美は声を上げていた。


「どうしました?」


 美久の父親は立ち止まっている緒美に、不思議そうに声をかけた。


「い、いえ!」


 緒美は首をブンブン振って、玄関に入った。






「妻は今パートに出かけていまして、もう時期帰ってくると思いますが…」


 そう言って美久の父親は慣れない手つきでお茶を出した。


「ありがとうございます」


 仏壇に線香をあげ終わった緒美はテーブルについた。


「急に押しかけてしまってすみませんでした」


 改めて謝ると、美久の父親はゆっくりと首を振った。


「いえ、こうやって友人の方が訪ねてくれて、美久もきっと喜んでいるでしょう」


 そう言って美久の父親は仏壇に置かれた写真立てを見つめた。

美久は制服姿で人懐こい笑顔を向けていた。


「今はもう訪ねてくる友人はほとんど居ないんですよ。就職や結婚で他県に行ったりして、地元にいる子は少ないですから尚更ですよね」


 そう語る表情は寂しげだった。


「…ああ、そうだ。本をお返ししないと」


 思い出したように美久の父親は立ち上がった。


「あ…」と緒美は思わず小さな声を出した。


 家に来る口実に適当に言ったことだとはいえ、嘘をついたことに申し訳なくなる。

 美久の父親の後をついて行き、緒美は2階にあがった。

奥の突き当りの部屋のドアにはローマ字で「MIKU」と書かれたプレートが掛かっていた。

美久の父親がドアノブを回すとタイミングよく、玄関のチャイムが鳴った。


「すみません。先に中に入っていてください」


 そう言い残して、美久の父親は階段を降りていった。

緒美は言われた通り部屋に入った。

うさぎが好きだったのか、色んな種類のうさぎのぬいぐるみがそこらかしこに置かれている。

 ホコリ臭さはなく、適度に換気をしているようだ。

美久の父親が戻らないうちと、緒美は奥の勉強机に近づいた。


「失礼します」


 そう言って机の引き出しを開ける。


(お守り…どこかしら)


 すべての引き出しを漁るがそれらしき物は見当たらない。


(美久ちゃんから何処にあるのか聞けばよかったわ)


 次に学生鞄を見ることにした。

中は教科書がぎっしりと詰まっている。

内側のポケットを探ると水色の小さな紙袋が入っていた。

中を見るとフェルトで作られたお手製のお守りが出できた。

それと1枚の手紙も一緒に入っていた。

それに目を通した緒美は、自分の鞄にお守りをそっと入れて、学生鞄を元の位置に戻した。


「すみませんでした」


 その時、ちょうど美久の父親が部屋に入ってきた。


「い、いいえ!」


 緒美は冷や汗をかきながら、首を振った。


「本はありました?」

「あ、いえ。美久さんに貸していたと思っていたんですけど、どうやら私の勘違いだったようです!」


 「すみません」と緒美は何度も頭を下げた。


「いえ、お気になさらず」


美久の父親は苦笑いをした。




「なんのお構いもできずに。是非、また来てください」

「はい!失礼します」


 緒美は深々と頭を下げて、美久の家を出た。


応援よろしくお願いします!!


気に入って頂けたらブックマーク、☆で作品を評価してくださると執筆の励みになります。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ