一話 新居探し
「岳斗君、ご指名入ったわよ!」
「はい?」
悪ノリで声をかけられた白宮岳斗は、にらめっこしていたパソコン画面から視線をあげる。
すると女子社員が意味ありげに「あっち」と窓口の方を指差していた。
そこには見知った男女の姿があった。
黒髪の女性はもの珍しげに店内を見渡している。
一方の男性は正面を向いたまま腕を組んでいた。
白宮は慌てて、二人の元に駆け寄った。
「遅い」
白宮が近づくと黒羽根は腕を組んだまま毒づいた。
「白宮さん、こんにちは」
「忽那さんっ!?こんにちは!!」
緒美が挨拶すると、白宮が破顔した。黒羽根の視線が途端に鋭くなる。
「ちょっと先輩!!」
全く気にしてない様子で白宮は座っていた黒羽根の腕を引っ張って、強引に店内の端に連れて行く。
「なんなんだ?」
「ど、どうして『緒美さん』と一緒なんですか!」
白宮は、黒羽根に顔を近づけて小声で尋ねた。
「…どういう意味だ?」
「もう仕事の依頼人じゃないんですよね?」
「ああ、そうだが?」
「なのに!なんで!一緒に居るんですか!?」
白宮の言っていることの意味が分からず、黒羽根の眉間のシワがさらに深く刻まれる。
「あの…白宮さん?」
そんな二人に近寄って、緒美が控えめに声をかけた。
「あ!忽那さん、すみません!!今日はどうしたんですか?まさか!僕に会いに来て…」
「部屋を探しに来たんです」
「そ…そうですか」
白宮が言い終える前に、緒美は即答した。
脈なしの様子に白宮はしょんぼりと項垂れる。
そして、すぐにハッと白宮は顔を上げた。
「ま、まさか…おふたり…同棲するんじゃないですよね…?」
白宮は恐る恐る聞いた。
「へ?」
「お、おい!」
目を瞬かせる緒美。
狼狽する黒羽根。
「いえ、私の住む家を探していて…独り暮らし用の部屋を紹介してほしいんですが…」
緒美が言いにくそうに告げる。
「そ、そうですか!ははっ、勘違いしました」
「お前は…!」
黒羽根は思いっきり白宮を睨みつけた。
◇◇◇◇ ◇◇◇◇
「黒羽根さん、今日は付き合ってくださってありがとうございました」
緒美は店内から出ると黒羽根に頭を下げた。
「いえ、お役に立てたなら何よりです」
黒羽根はいつものようにぶっきらぼうに答えた。
「それで、あの、忽那さん。宜しかったら、この後…」
珍しく言い淀む黒羽根。
するとズボンのポケットが振動した。
黒羽根は「こんな時に!」と舌打ちしたくなりながら、スマホを取り出す。
「お仕事ですか?」
緒美が聞いた。
「はい…上司から呼び出されました」
黒羽根は恨めしそうにスマホのメッセージを見る。
「そうですか。休日なのに大変ですね」
「はい…」
「じゃあ、私はここで」
「え…」
「お仕事頑張ってくださいね!」
緒美はそう言って、黒羽根を送り出した。
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