イカれているのは、どちらか。
ゆっくり投稿。
狭間
それは神々の住まう都。神々は人々の安泰と幸福を望み、狭間から様々な生き物──魔人や能力を持つ人間、または持たぬ人間が暮すこの世界を見守っている。
いや、見守っていた。
狭間は穢された。狂った思考と薬漬けにした体を持つ者たち──【ユウラ】が狭間をこじ開け、神々を殺し回った。その時より、この世の理は大きくズレてしまった。
嵐が吹き荒れ、地は乾き、泣き叫ぶ者たちの声。食糧不足に苦しみ、あまりの暑さと寒さに狂い死ぬ。
めちゃくちゃになった世界が、まだ崩壊していないのは──七神のうちの一神、創造神ファルシュが侵略に屈することなく生き続けているからである。
常人の力や頭脳では解明することのできぬ数々の罠で自らを隠し、閉じ込め、ファルシュはただ一神で身を粉にして世界に祈りを捧げ続ける。
この物語は──この状況を打破するために作られた組織【スタップレイ】の狩人の話──ではなく、狩人育成所に勤務する、一人の教師と、永遠に行き続ける魔人の物語である。
──────
──スタップレイ、とは、二つの目標を掲げる政府公認の組織である。
一つ目の目標は、狭間の奪還。及びユウラの殲滅。
二つ目の目標は、創造神ファルシュの解放、そして残り八神の復活。
スタップレイには様々な科があり、それぞれ役割が異なる。
【ユウラ】の情報を得るために動く情報科、【ユウラ】について研究を行う理従科など。様々な科があるが、一番人気があるのは──狭間に押し入り、そこに蔓延る【ユウラ】を滅殺する──狩人科である。
狩人科には、なかなかに個性的な奴らが多い。
親や大事な者を殺され、復讐を誓い学びに来た者──まだそれは理解できる、のだが。
金が欲しくて命を懸ける阿呆だったり、純粋に戦いを楽しむ戦闘狂だったり、自分の正義を曲げず神を救うことに固執した真面目野郎だったり。
──そういう奴らは大抵、性格も個性的だ。
「……だからね、私は何度も言ったんだ。」
狩人科で教鞭を執る女─ティナは澄まし顔で言う。窓の外ではカラスが泣き喚く夕方頃に、この事件は起こった。
ティナの右手には理従学科の男子生徒の足首が握られ、男子生徒は逆さ吊りにされている。彼の頭が、ティナが話すたびにずりずりと廊下を削っていった。廊下を歩いていた生徒がざわざわと声を上げ始める。
「味方に毒を盛るような子はね、狩人になる資格なんてないんだよ」
狩人科というのは椅子取りゲームだ。
決められた人数しか成ることのできない狩人という椅子に、何千人もの人や魔人がそれを狙って奪い合う。いわば蹴落とし合いである。
そのため、毎年毎年こういった事件が起きる。もはや恒例行事だ。
男子生徒はだらだらと冷や汗をかきながら、違う、違うと命乞いのような言葉を吐き続ける。それに比例するように、ティナの眉間のしわはどんどん深くなっていった。
「……もういいや。いつものように処理しといて」
ティナは男子生徒を同じ教師で後輩の男に投げつけた。後輩の男は慌てふためくこともなく、手慣れた動きで生徒を受け止めると、俵担ぎにして何処かへ消えていった。
──冷酷無比な仕事人
それがティナについたあだ名である。燃えるような赤い髪と可愛らしい顔立ちからは想像できない氷のような性格は、冷酷無比という言葉にぴったりだった。
ティナは革靴を地に叩きつけながら執務室に戻る。周りにいる生徒たちがティナを怪奇の目で見てくるが、そんなことはどうでも良かった。
──血生臭い
執務室に近づくにつれ匂いが濃くなっていく。ティナは執務室の扉の前に立つと、懐から拳銃を取り出した。仮に執務室に侵入者がいたとしたら不味い。執務室は育成所の真ん中にある。ここを抑えられたら育成所は占拠されてしまう。ティナは舌なめずりをして、ドアを思いっきり蹴飛ばした。
「──客人を待たせるとは、なかなかにいい度胸をしているな」
筋骨隆々、長い髪を結った男が血まみれでソファに座っていた。
「………うん、あのね」
ティナは静かに、男の対面にあるソファに浅く腰掛けた。
「私の記憶が可笑しくなければ、私は君に客間で待つよう指示したはずなんだけど」
「あぁ、指示されたな。だがあそこは暑い。熱気が籠もっていて待つどころか死んでしまう」
「だから、ここに無断で入ってきた、と?」
「あぁ、そうだ……説教は聞かないぞ。少なくともルール違反をした生徒がいる、と何も言わず何処かに消えていった君が悪いからな」
「まぁ、うん。そうだね」
ティナは内心荒ぶりながら、お得意の薄い笑みを浮かべてタオルを差し出す。それを受け取ったリンは、ゆっくりと身体についた血をふき取っていく。ある程度拭くと、彼は足を組んでから、言った。
「自己紹介を忘れていた。俺はリン・アルダー、二つ名は『水猫』よろしく」
──リン・アルダー
何百年、何千年も生き続けてきた魔物であり、入るだけでも負荷がかかる狭間に二十三回平気で入っていき、ユウラ達を百体以上殺して帰ってくる──やばい奴である。鍛え上げられた筋肉と、物怖じしない性格がそれを物語っている
「…………私はティナ・セティルス。ここ狩人育成所の理従学科で教鞭を執る、教師をしている。よろしくね」
「それで、仕事内容を話してもらおうか。本部ではなく育成所から依頼が来るということは、なかなか面白い任務なんだろう」
「随分急いでいるようだね。何かこのあと任務でもあるのかな?」
「違う…が、俺は先程まで任務を終えたばかりだ。早く帰って休みたい。そして喉が渇いた」
「おや、すまないすまない。客人に対する礼儀が成ってなかったね。紅茶でいいかな?」
何処かズレた会話を行いながら、リンは首を縦に振った。
ティナは一呼吸入れて、続ける。
「──君には花嫁になって欲しいんだ」
「………………………………………………は??????」
これは、殺戮兵器のイカれ魔人リンと、静かにイかれた教師ティナ達の──花嫁修業の物語である
見てくれてありがとうございます