第一村人発見2
ドンッ
(ほらよ)
目を開けると男が赤い物を差し出していた。肉だ。
俺のかと思いやまとは体のいたるところを触った。
(お前のじゃねーよ、こいつのだよ)
男は鹿を指さした。
(早く食えよ)
やまとは何が起きたのか分からなかったが、殺されてない、ということだけは分かった。
この肉を食べていいんですか?
(あたりめーだろ、腹空いてんだろ)
(お腹空いてますけど)
(お前、何時間も森を歩いてるんだろ、服が土や泥で汚れてるのがわかる。)
この男は良く見ていていた。やまとの服が見慣れないということは、遠くから来たということ。道があるところを歩かずこの森を歩いてきたということは何か事情があること、服が汚れていること。
やまとは肉を焼こうと火を使おうとしたとき
(まさか、お前、火で焼こうとはしてないよな)
やまとは男の目を見た。その目は先ほど見ていた奇麗な目はしておらず、ライオンのような鋭い目をしていた。
(いや、まさか、明るいとこで食べたいなーと思ったからですよ。)
(そうだったのか、悪いな、早く食べてみろ鮮度が落ちる前にな)
男の目はライオンのような鋭い目ではなく、お菓子を買ってもらえると期待している子供のような目をしていた。
やまとは躊躇った。
<生肉なんて食ったら体壊すよ。でも、ずっと見てるよ、この人。>
やまとは決意した。
<ええーいままよ>
ガブ、ネチャネチャネチャネチャ
男の方を向くと屈託のない笑顔を向けられた。
(あ、まだ名前を言ってなかったな、俺の名前は、バグラー、こうやって森で生活している。よろしく。)
やまとは納得した。だから、蛮族みたいな恰好をしているのか。
(私の名前はやまとです。人の話を聞く仕事をしていました。)
(やまと?珍しい名前だな。)
気が緩んだのかやまとは、女神から言われた「国を救え」というのを思い出した。
(あの、質問なんですけど、近くに国はありますか?)
(近くに国か、結構遠くだけど、キルシュバン王国とカンザフ国がある。)
(キルシュバン王国、カンザフ国?)
初めて聞いた国の名前にやまとは一歩進めた感じがして嬉しかった。
(カンザフ国は、行ってもいいと思うが、キルシュバン王国には、行かない方がいいと思うな)
(なぜですか?)
(ここから、3日歩くし、あまり治安がいい国ではないって聞くからな。カンザフ国はタイダル国と友好的だからな。お前って、タイダル国って知ってる?)
(タイダル国?)
(やっぱり知らないのか、ここもタイダル国なんだが)
<やっぱり?>
(ここってもう国なんですか?)
(そうだぞ、タイダル国だな)
<キルシュバン王国にカンザフ国にタイダル国>
やまとは、どの国を救えばいいのか、わからなかった。
(タイダル国の中心地、ノヴィステッドなら、5時間くらいで着くぞ。)
(なるほど、)
やまとは、悩んだ。
(あの、タイダル国ってどのくらい広いですか?)
(うーん、あっちが、中心地だから、反対方向に、ここから10時間くらい、歩けば抜けられるじゃないか)
あいまいだなと思った。
(あっちの方から、1時間くらい歩いてここに来たんですけど、あっちもタイダル国ですか?)
(1時間くらいだったら、タイダル国だな、この森全部、タイダル国の領土だからな)
(そうなんですね)
(お前って、どこから来たの?)
(え、)
(なんか、気づいたらここの森にいましたって感じだけど、ここがタイダル国だって知らないし)
やまとは、焦った。
(あー)
<なんとか、誤魔化さないとやばい>
(まあ、いいよ、言いたくないなら、人それぞれ言いたくないことは、あるもんな。)
ほっとした。人は見かけによらないことを改めて感じた。
(あの、タイダル国ってどんな国なんですか?)
(タイダル国、あそこは平和なんだよ。)
(平和?)<平和とはどうゆうとだ>
(まあ、見ればわかるよ、明日行くんだろ。明日のためにもう寝よう。)
気になるけど、自分の目で見るのが一番だと思ったやまとは、これ以上何も聞かなかった。