4話:影
闇
空間全体に広がる闇。
その闇の中でぽつりと一つの白いテーブルと対面に置かれた白い椅子。
航は、呆然とそのテーブルを眺めていた、
航の意識は、半覚醒状態だったが、次第に霧が晴れるように意識が浮上してきた。
航がフッと目の前の白いテーブルの向こう側に黒い影が存在しているのに気が付いた。
白いテーブルの向こう側。
白い椅子に腰掛けた黒い影。
人の形をしているが、航の目に映るのは、黒い闇そのものだった。
そして、黒い顔らしき部分に大きな口が開かれた。
「やあ、久しぶりだね。何時ぶりだろうか? ここ来て、話をしないかい?」
黒い影がいきなりそう言って、航を手招きをする。
航は、落ち着いた様子で黒い影の指示に従い、対面の白い椅子に腰掛けた。
「さて、今回は、何を話そうか」
影は、航をからかう様にそう言って、両腕を組む。
「これは、夢だ」
航は、唐突にそう影に言った。
「そう、これは、ただの夢。現実には、存在しない夢のようなモノ。それでも君がここ居るのは、意味がある事だと思うよ」
「・・・」
航が無言で影を見つめて居ると影は、ニヤリと笑みを浮かべて口を開いた。
「さあ、黙ってないで。会話をしよう。コミュニケーションをしよう。話をしなければ、お互いに理解できないし、君の悩みも解決しない」
「いったい、何を話せと言うんだ?」
「何でも良いんだよ。世間話でも恋愛話でも君の身の上話でもいい。知性あるモノなら、コミュニケーションを行い、お互いの理解を深めて行くものだろう? 知的要求、好奇心? いや、違うね。やっぱり、他人を知り理解したいと思うのは、当然だと思うよ。理解できるかは、別にしてね」
「・・・」
航がむっすりとした表情で黙っていると影は、可笑しそうに笑った。
「君も強情だね。では、こうしよう。君が話題を提示できないと言うのなら、僕がその話題を提供しよう。さて、何がいいかな」
「ここに来たのは、意味があると言ったな? 何故、俺は、ここに居る。何故、ここに来れる?」
沈黙を続けていた航が突然、影に問いかけた。
「えー、その話は、めんどくさいから、やだよ。それよりもさ、もっと君の身近な話がいいね。例えば、君の幼馴染の事とかね」
「どうして、それを?」
航は、驚いた様子で口を開く。
「何でも知っているよ。情報収集には、力を入れていてね。君の事も、幼馴染の事も。君は、幼馴染の扱いに悩んでいる。君の意思、彼女の意思、周りの意思、どれをとっても平行線でしかない」
「うるさい! 黙れ!」
航は、影の言葉が真実を突いていただけに激昂して、叫んだ。
「停滞は、何も生み出さないよ。良い方か悪い方か、どちらに進むにしても動かない事には、進歩も成長も存在しない」
「悪い方へ転がる可能性が高い事だってあるだろ? それでは、困るんだ。終わりなんだよ」
「君は、また逃げ出すのかい? あの8年前の様に。名前を変え、顔を変えて逃げ出した先に得たモノは、あるのかい?」
影が薄気味悪い笑みを浮かべたかと思うと、航の意識は、プツリと途切れてしまった。