1話:存在否定
人は、欲深い生き物である。
それ故に世界に拒絶される。
人は、社会と密接に係わり、その中で小さな幸福を得ようとする。
それ以上の幸福を得ようとするならば、社会と自身の関係を切り離すしかない。
あなたは、今・・・・幸せですか?
一人の少年と少女が学校へ向かう途中だった。
年齢は、どちらも16歳。
同じクラスの同級生だった。
少年、神庭航の半歩後をしなやかな足取りでついていく黒いロングヘアーが特徴的な美少女。
少女の名前は、神楽澪と言った。
航は、静かに自分の後ろをついて来る澪に振り向いた。
「どうした? 今日は、えらく静かだな?」
「そんな事は、無いわ。いつも通りよ」
澪は、航の問いかけに表情を崩さずに冷静に答えた。
そんな澪の態度に航は、少し困ったような表情を浮かべる。
「なぁ、こんな事を聞くのは、いまさらだと思うが・・・」
「何?」
「澪、おまえは、どうしてクラスにとけ込もうとしない? もう10月だ。入学してから、どれぐらい経ったと思ってるんだ? まるで他人を拒絶しているみたいだ」
「あら、心外ね。少なくとも私は、航を拒絶したりなんてしないわ」
「そうじゃない。俺以外の他人を拒絶してるように見えると言ってるんだ」
「あたりまえよ。私は、航以外の他人には、興味がないの」
澪は、しれっと冷静な表情でそう言ってのけた。
航は、複雑な表情を浮かべると困った様子で再び問いかけた。
「それは、なんだ? 告白なのか?」
「勘違いしないでよ。私は、航を人間としてみてるだけ。それ以上でも以下でもないわ」
「なんだ。それは? じゃあ、俺以外の他人は、人間以下だとでも言うのか?」
{そうね。例えるなら、猿以下の存在}
澪がキッパリっとそう言うと、航は、呆れた表情でため息をついた。
「お前は、凄い。凄い奴だ。いまさらのように実感したよ」
「そう? ありがと」
澪は、ニコリと笑みを浮かべて答える。
「航、私は、あなたを人間として見てるわ。人間として見ているから、私とは、対等なの。あなたは、もっと自分を誇るべきだわ」
「それは、・・・誇るべき事なのか?」
航が呆然と聞き返すと、澪は、右手の人差し指を自分の口に接触させると、そのまま航の頬にプスリと突き刺した。
「痛っ!! いたた。何するんだ!?」
「少し、急がないと遅刻しそうだわ」
澪は、抗議をあげる航を無視するようにそう言って、横をすり抜け、航の前を歩きだした。
航は、そんな澪を見て呆れながらも、そそくさと、彼女の後を追いかけるのだった。