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4.終わったはずの人生


 それからの時の流れは早かった。国王派の貴族達が次々死んだことで貴族派はあっという間に勢いを増した。そして遂に国に対し反乱を起こした。

 僕はその反乱の先頭にたって、戦った。何人も何人も邪魔な奴は殺した。闇の魔術は本当に人を殺すには便利なものだった。

 やがて貴族派はそのままの勢いで城に攻め込み、国王達を追い詰めるまでになった。

 国王の身柄を抑える為に城へ突入した僕の前に立ちふさがったのは聖剣に選ばれた勇者ロイド・ハウジングだった。この国随一の騎士だ。


「これはこれは聖騎士様にまさかこんなところで会えるとは思っていませんでしたよ」


 僕が茶化しながらそう言ってもロイドは何も言わなかった。ただ厳しい表情をして僕を睨んでいた。


「このまま逃げてもいいんですよ?」

「誰に物を言っているんだ?」


 そう言ってロイドは聖剣を抜く。ロイドが抜くと聖剣は光り輝く。

 聖剣を扱えるのは光属性の魔力を持っているものだけだ。そう、僕の闇属性はこんなにも嫌われているというのに同じく四大属性ではないにも関わらず光属性は持っているだけで誰にでも祝福される。

 それが本当に腹ただしい。

 僕も剣を構える。勇者だろうが何だろうがこの僕が負けるはずがない。

 邪魔な奴は誰だろうと消してやる。

 僕は素早く詠唱を唱えると闇の魔術で攻撃した。それをロイドは聖剣で受ける。聖剣は闇の魔術を跡形もなく消し去った。

 やはり、聖剣はみかけだけの剣ではないってことか。

 僕は素早く体制を整えるとそのまま、ロイドに斬りかかる。ロイドはそれを受け止めた。何度も何度も斬り合う。少し斬り合ってわかったが、ロイドは相当の剣の手練れだ。

 下手すれば父さんよりも強いかもしれない。

 いつの間にか僕は劣勢になっていて、ロイドの剣を受けるのに必死になっていた。


「くっそ!」


 こんなところで、こんなところで負けてたまるか。

 僕は闇の魔術を何度も発動させ、ロイドに攻める。ロイドそれを聖剣の力で打ち消す。そして次の瞬間、僕の剣を叩き落とした。

 僕は反動で後ろに倒れこみ、気づけば目の前に聖剣が突きつけられていた。

 完全な僕の敗北だった。

 聖剣さえ、聖剣さえなければこんな男に負けなかったのに。

 そう思い、僕はロイドを睨みつける。ロイドは僕をまるで醜いものでも見る様な目で僕を見た。


「こんな、こんなのが、オーウェン・ヴェイフォードの息子か」


 突然出された父さんの名前に僕は驚き、ロイドを見る。


「父さんの名前をだすな!僕は父さんとは違う!」

「だろうな。俺はあの人のことを誰よりも尊敬していた。その人の息子がまさかこんなくず野郎だとは夢にも思っていなかったけどな」

「くず野郎だと?くず野郎はどっちだ!」


 僕がそう叫べば、ロイドは不快気に目を細めた。


「父さんのことを尊敬しているだ?そりゃあ、国にとってはあの人の仕事ができる人はいなかっただろうな。でも、それだけだ!あの人が自分の家族に何をしていたかもしらないで!」

「君がどういうめにあっていたのかは知っている」

「なら、わかるだろう!あの男は!尊敬に値するような男じゃない!」


 僕のその言葉にロイドは目を細めた。そして静かに淡々と言う。


「たしかに、君の父親は父親としては失格だったかもしれない。それでも君はひとつ思い違いをしている」

「思い違いだ?何を!?」

「君の父親は君をたしかに愛していた」

「は?」


 ロイドの言った言葉の意味がわからず、僕は黙り込む。

 あの男はなんて言った?父さんが僕を愛していた?何を言っているんだ?

 僕をこんなふうにしたのはそもそも父さんがいけないのに。


「それこそありえない!そんなはずがない!」

「本当だ。君の事をあの人は誰よりも思っていた」

「何を根拠に!そんなたわ言を!」

「可笑しいと思わなかったのか?そもそも剣の手練れで、魔術師として優秀でもあるはずのオーウェン・ヴェイフォードがあんなあっさり殺されるはずがないだろう?」

「それは」


 それは確かに可笑しいとは思った。僕が父さんを殺した時、父さんは僕に何の抵抗もしなかった。僕に今、まさに殺されようとしているというのにだ。


「できるはずがない。あの人が自分の息子に手を上げることなんて、出来るはずがなかったんだ」

「何を言ってるんだ!さんざん、僕をあんなめに合わせておきながら今更手をあげられないだ!?そんな!?」

「ヴェイフォード公爵家は国王派の筆頭公爵、おまけに代々宰相を任されている名誉ある一族だ。その跡継ぎとなればそれなりの能力が求められる。その為に君にわざと辛い教育をしていたとしたら?」


 この男はいったい、何を言っているんだ?


「当主に相応しい者にするため、そうすることで君を守ることができる。そう頑なに信じていたから、君に辛く当たっていたとしたら?」


 違う、違う、そんなんじゃない。あの人は本当に。


「それに君は闇属性の持ち主だ。ただでさえ闇属性の人間はいい噂を聞かない。当然君に対しても常に偏見の目が向けられたことだろう。そんな時、君を守ってくれるのは君自身の力だけだ。そう思って、わざと冷たい態度をとっていたとしたら?」


 そんなのあり得ない。そんなの、いや、そうだとしても。


「だからって、あんなの」

「そうだ許されるものじゃない。君も君の父親も愚か者だ。いつかこうなってしまうんじゃないかとは思っていた。そうなる前に君と君の父親が理解し合えたら、そう願っていたのにそれを永遠にできなくしたのは君だ」

「僕は、僕は」

「君がその手で父親を殺さなければ、いつか理解し合えたかもしれないのに」

「っ!?」


 嘘だ。嘘だ。嘘だ。

 嘘だ。嘘だ。嘘だ。

 そんなのありえない。あの人が僕のことを思っていたなんて、そんなのあり得ない。あんな、あんな奴が、一度だって僕を見てくれなかったあの人が。


「投降しろ。そうすれば命までとらない」

「う、うあああああああ!!」


 僕は落ちた剣を拾い上げるとがむしゃらに目の前の男に斬りかかった。

 もう何がなんだか分からなかった。

 ただ、僕は何か、とんでもない間違いをしてしまったのではないかと、それが怖くて怖くて怖くて。


「残念だよ」


 ロイドはそう呟いたかと思うと次の瞬間僕の身体に聖剣が突き刺さっていた。


「がはっ!?」


 すぐにロイドは聖剣を抜く。同時におびただしい血が溢れ出す。

 僕は力なくその場に崩れ落ちた。

 床に倒れこみながら、僕は必死に何度もつぶやく。


「僕のせいじゃない、僕は何も悪くない、僕は、ただ、ただ!」


 そう、あの人が一度でも僕を見てくれたら、褒めてくれたなら、笑いかけてくれたなら。それだけで良かったのに。


「あの人は僕を嫌っていたんだ、そうじゃなきゃ、こんな、こんな!」


 その時、父さんの死に際の言葉がよみがえる。

 すまない。

 確かにそう言った父さんの声が。


「な、んで……」


 薄れゆく意識の中で僕は必死に考える。

 僕は間違っていたのだろうか?

 僕がしたことは全て間違っていたのだろうか。

 胸にあったはずの高揚感はもうなくなっていた。ただただ虚しさと悲しみだけが胸を占める。

 僕はどうすれば良かったのだろうか。

 もしもあの時に戻って、確かめることが出来るなら。

 もう一度、あの時に戻れるなら、僕は、僕は。

 もう一度、父さんに会いたい。

 会って確かめたい。

 今度こそ、きっと。

 そこで僕の意識は途絶えた。







 ゆっくりと目を開ける。

 そこには暖かな日差しがさしていた。

 可笑しい。僕は確か刺されて死んだはずだ。

 僕は首を上げ、辺りを見渡す。そこは見慣れたヴェイフォード公爵家の庭だった。

 庭?何で?僕は確かにさっきまで王城にいたはず。

 それがどうしてこんなところに。


「ああ、アレクシス様!良かった!気付かれたんですね!」


 そう言って、身体の大きい男が僕の顔を覗きむ。傷だらけの顔。その顔には見覚えがあった。


「すみません!俺が手を誤ったばっかりに!」


 男はそう言うと頭を地面にこすりつける勢いで頭を下げる。それを呆然と僕は見る。


「えっと」

「すみません、額にまさか傷を負わせるなんて、本当に申し訳ありません!」

「額に傷?」


 僕はそっと額を抑える。そこには冷たく濡れたハンカチが押し当てられていた。そっとハンカチをとって傷を触ると薄い傷が額についているのが分かった。


「アレクシス様、もうすぐお医者様来ます。それまで安静にしてください」


 使用人がそう言い、僕に寝る様に言う。

 いや、傷よりも僕は今何がどうなっているかわからない。

 そっと手を見て、僕は自分の手の小ささに驚く。こんな小さな手では剣も握れない。


「いったい、どうなって」


 いや、待て。可笑しい。この声は何だ。

 こんな高い声。まるで子供の頃みたいな。


「アレクシス様、お水です。どうぞ」


 そう言って、今度は別の使用人が僕にグラスに入った水を差し出す。

 グラスに入った水にうつる顔を見て、僕は息を呑む。そこにはまだ幼い男の子がうつっていた。


「え?」


 理由は全くわからない。

 ただ、僕は気づけば、幼い頃の自分に戻っていた。


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