世界を支配する魔女は 流れ星を手に入れる
昔々のお話です。
世界中の国々が、まだ戦争をくりかえしていた頃。
ある小さな町の教会に、魔物退治をしているふたりの女の子がいました。
ひとりは剣士
ひとりは魔法使い
ふたりはいつも一緒で、どんな時も助け合って、町のまわりに出てくる魔物を倒していました。
ふたりの強さは、魔物から守られている町中の人が知っています。
やがてその評判は、国中の人々の噂になりました。
ふたりの女の子は、緑の屋根が連なる町を守っていたので
「緑の退魔師」と呼ばれていました。
噂は王様の耳に届き、緑の退魔師は王都に招かれました。
腕試しに戦ったお城の兵士20人も、相手になりません。
王様は隣の国との戦争に、緑の退魔師を送り出しました。
勝ったり負けたりをくりかえしていた戦場は、緑の退魔師が到着すると、毎回大勝利をおさめるようになりました。
そこで王様はもっと多くの戦いで勝つために、ふたりを別々の戦場に送り出しました。
ところが、今まで助け合って戦ってきていたふたりは、ひとりずつになるとうまく戦えませんでした。
緑の退魔師の剣士が戦場で倒れ、魔法使いは姿を消しました。
戦場はまた勝ったり負けたりをくりかえすようになり、王様はふたりを別々にしたことを後悔しました。
隣の国との戦争も、いよいよ大きな決戦の時を迎えた日。
広大なディールの丘に、ふたつの国の戦陣がひろがっていました。
開戦の合図とともに、雷鳴が轟き、空を覆うほど大きな魔物が現れました。
鹿の角に大きな目、ほりの深い虎のような顔立ち。
馬のような細長い口元に、細長い硬質の髭。
蛇に似た硬質の鱗をもつ身体に、鋭い爪を持つ前脚。
そしてその背中には、緑の退魔師の魔法使いがいました。
魔物は戦争の陣を薙ぎ払い、滝のような雨が降り続き、広野は一晩で洪水に沈みました。
戦争をしていたふたつの国は、決戦の戦場にいた王様を失いました。
王都にも洪水が押し寄せて、ふたつの国は水に沈んでしまいました。
それからというもの、戦いの場所には必ず魔物が現れるようになり
大きな戦いの場所には、洪水が起こるようになりました。
まわりの国々も同じ事に悩まされ、やがて魔物と洪水の被害を避けるように、色々な場所でくりかえしていた戦争は、なくなっていきました。
水に沈んだふたつの国の洪水のあとは、水が渇くことはなく、広大な湖沼地帯になりました。
そこは、魔物がいつでも発生する危険な場所。
そこには、最初の洪水があった時に魔物と一緒にいた、緑の退魔師の魔法使いがいます。
戦いの場には魔物を遣わせ、大きな戦いの場には洪水をおこす、災厄の魔法使い。
やがて、人々は彼女をこう呼ぶようになりました。
『世界を支配する魔女』―――と。
「師匠、人は死んだらどこに行くの?」
「んー、お星様になるんだよっていうのが、昔々からの定番かしらね」
「この空いっぱいの、星?」
「そう。だからいつでも一緒ってこと」
「でも、遠いよ。そんなの嫌」
「そうねぇ……でも、100年……300年先に流れ星は落ちてくるから、また会えるわよ」
「師匠は、また会えたことがあるの?」
「ええ。だから、元気だして。私の可愛い魔法使いさん」
「……師匠がそう言うなら……。私も、流れ星を待つよ」
「瞬く時の先に、あなたの望む未来がある。星降る空の先に、あなたの望む命がある。…………迷わず行きなさい。あなたの存在をかたどるものは、あなたの魂、そのままなのだから」
「……ありがとう。師匠」
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そのあと、どうなったでしょう?
星を見上げ続けた魔女は長い時間に飽きて、別の人間として世界に紛れることにしました。
記憶を封じ、性別も変え、普通の人間として生きる時間。
でもその間に、待ち望んだ流れ星はすぐ近くに落ちてきていました。
……遠くない未来、魔女を倒すことになる、少年の姿をして。
偽りと気紛れの人生をおくる魔女。
試練を乗り越え強くなる聖女。
巡り落ちた流れ星の勇者。
ここから先は、新しい物語がはじまるのです。
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