伝わない嫉妬
「紫雲くん、おはよう」
「あ、ああ。おはよう、姫宮」
あの放課後のやり取りを経て、俺と姫宮はたまに話すようになっていた。
「うん、今日もよろしくね。あ、石原さんおはよう」
「あ……」
とはいっても、精々朝の挨拶を交わすくらいの間柄だ。
その挨拶もそこそこに姫宮はさっさと別の友人のところへと行ってしまった。
彼女は意図してるわけじゃないのだろうが、そのあっさりとした態度が淡白であるように感じてしまい、名残惜しく思ってしまうのは、悲しい男のサガってやつなのかもしれない。
(結局、姫宮にとっては俺はただのクラスメイトってことかぁ)
改めて突きつけられた事実に落胆するも、冷静に考えるとそれも当然っちゃ当然だ。
意識し始めてわかったことだが、姫宮はクラスでも人気がある女子で、友人もかなり多いようである。
男子にも気安く話しかけてくれることから、既に好意を持っている男子もいるようでなかには早速告白したやつもいるらしい。
それを聞いたときには驚いたが、どうやら姫宮は断ったらしく、今もフリーであるようだ。
そのことは個人的に嬉しい限りだが、それだけ積極的なやつもいるのだから、日頃から姫宮にアピールしている男子も俺が気付いていないだけでそれなりにいるに違いない。
なかにはイケメンも当然いるだろうし、彼女の魅力に気付いた他クラスの男子もこれから参戦してくる可能性を考えれば、倍率は相当高くなっていくだろうことは想像に難くない。
そんななか、姫宮に話しかけられただけで一喜一憂してある程度満足してしまい、自分から話しかける勇気もろくにないチキン野郎なんて、彼女からすれば路傍の石、ただのクラスメイトAに過ぎないだろう。
(まぁ要するに、行動しない俺が悪いってだけの話なんだけどさ…)
いや、俺だって本心では姫宮に話しかけたいんだよ。
姫宮のことをもっと知りたいと本気で思ってるし、御近付きになりたいとも思ってる。
ただ、それをするには乗り越えなければいけない障害があるっていうだけで…そのことを考えると、ひどくげんなりしてしまうのだ。
「……蓮司、今だれのことを見ていたの?」
ほぅら、早速おいでなすった。俺の障害にして、最大の天敵の登場である。
「別に、誰も見てねーよ」
「ふーん…」
きたのは言うまでもなく鶴姫だ。姫宮とは真逆の、訝しむような目で俺を見てくる。
なにも悪いことをしていないのに、なんでそんな目で見られなきゃいけないんだか。
「なんだよ…」
「別に。ただ、姫宮さんに話しかけられた程度で、鼻の下を伸ばすような情けないやつだったんだなって思っただけよ」
嫌味をたっぷりとこめた捨て台詞を吐き、鶴姫は自分の席へと戻っていく。
なんのためにきたかと思えばそれだけかよ。
ここ最近、というかあのやりとりがあって以降、こうして鶴姫が俺のところにくる機会がやたら増えたように感じる。
(ああいうところもあいつを嫌いなところなんだよな…)
嫉妬深いというなら可愛げもあるものだが、アイツの場合は常に一言多いのだ。
そのうえ常に監視されてるようで、鶴姫と同じ空間にいると思うと、落ち着ける時がほとんどない。
俺を自分の所有物としか思っていないその態度に、俺は心底嫌気が差した。
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