表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

リピート記号

作者: 白坂冬馬
掲載日:2020/01/07

いかないで、と思わず言った。

私の思考を追い越して溢れたその言葉は、今までのどの言葉よりも私が本当に言いたかった言葉だった。

私に涙を作る機能があったら、今ごろ貴方の顔はびしょ濡れだろう。

でも今は、涙の代わりに言葉だけが零れ続けている。

それは……私がAIだから。


「すまない」

今にも消え入りそうな声で貴方が言った。

涙が一筋、つうっと流れて白髪に消えた。

「謝らないでください」

私は震える指で、貴方の頬に触れた。

「貴方に造られてから今日まで、私はずっと幸せでした」

「ああ」

「もっともっと、貴方と一緒にいたいんです」

「ああ」

「だから――」

だから、いかないで欲しい。

でもその続きを言うことは出来なかった。

それは……貴方が人間だから。


「大丈夫、君なら独りでもやっていけるよ」

貴方はそう言って微笑んだ。

「独りでやっていって……それが何になるというのですか」

「私にとっては、貴方が全てなんです」

決して比喩ではない。

本当に、私にとっては貴方が全てなのだから。


「じゃあこうしよう」

貴方がそう切り出すときは、大抵くだらないアイデアを思いついた時だ。

「僕のクローンを作るんだ」

ほらね、くだらない。

「君、今くだらないって思ったね」

「思ってません」

「じゃあ――」

「そういうことじゃないんです」

私はじっと貴方を見つめた。


「わかってるさ、合理的に考えよう」

貴方は再び口を開いた。

「問題は、クローンを作る際の記憶が君の中に残ることだ」

私は貴方を見つめる。

「それならば、記憶を消せばいい」

私はこの先を知っている。

「僕が死ぬ瞬間の記憶ごと、消してしまえばいい」

私は――

「ふざけないでくださいっ!!」


貴方は驚いた表情で固まった。

「よくもそんなことを言えますね!」

自分でも驚くくらいの大声が、自分の口から次々に出ていっている。

「私がどれほど貴方を愛しているかも知らずに!」

とうに思考は置いて行かれ、感情だけで話している。

「そんなことをするくらいなら私は!!」

もう自分が何を言っているかもわからない。

「私は――!!」

どこかに行ってしまいたい。

「私……は……」

消えてしまいたい。


――ぎゅっと、抱きしめられた。


「そんなの、嫌です」

「それが僕の最後の願いだ」

「……」

「叶えてくれるね?」

「……」

「お願いだ」

「……ズルいです」


数時間後、貴方は逝った。


それから数年の月日が経ち、私の目の前にはクローン体の貴方がいる。

そして手元には、バックアップ用の記憶媒体とデフォルトデータが入った復旧機。

私は記憶媒体を自身のうなじに接続して、今の記憶を吸い出す準備を進める。


「このデータは……?」

記憶媒体の中に、かなり古いデータがいくつか残っていることに気づく。

ひとつひとつのデータは明らかに私のものだが、こんなバックアップを取った覚えはない。

しかもその日付は数十年間隔で飛んでいて、どう考えても私の記憶より遥かに昔のものだった。


「これって……」

よく考えれば、分かることだった。

「そんな、まさか……」

気づかないように考えることを避けていた。

「それじゃあ……」


"私"は、何回目なのだろうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ